とある県立高校の日常。

遠藤幸次

第1話 プロローグ


 2012年、4月。 


僕、いや、この俺、近藤晃こんどうあきらは晴れて『高校生』の身分になる。


 神奈川県、川崎市にある県立宿由しゅくゆう高校。

『ヤド高』の愛称で親しまれているその高校は、県内でもそれなりに難易度が高いと名を知られた、いわゆる進学校というやつだ。



 俺にとってこのヤド高は一番行きたかった高校、言い換えれば『第一志望』。

きっかけは中三の九月に行った文化祭、校内にただよう雰囲気に言いようも知れない魅力を感じたから。ヤド高にいる生徒全員が楽しそうな顔をしており、それぞれが自分の場所で主役のように輝いていた。その時の俺の目にはそう映った。

「自分の居場所はここにあるのかもしれない」何でこんなことを感じたのか理由は分からないが、

15歳ながらにそんなことを思ったほどだった。

まさに『あこがれの第一志望』というやつである。


授業態度じゅぎょうたいどの悪さがわざわいして成績は全くもって足りていなかった、模試もしの結果も最後の最後までE判定(合格率20%未満)だったが、死に物狂いの勉強の末になんとか合格できた。



俺は今日からヤド高生になる――。



たったそれだけなのに、何か俺の人生が大きく変わると思った。


べつに中学時代が悪かったわけでは全くない、

学校はそれなりに面白かったし、所属していたバドミントン部では部長だってやっていた。クラスの中心メンバーの取り巻きとして『居場所』を確立させていたので、なにかトラブルに巻き込まれるようなこともほとんどなかった。交友関係こうゆうかんけいでも、友達はそれなりにいた。


それでも、どこか退屈だったのだ。


楽しいことはもちろんある、でも心の底から本当に楽しめたのは部活以外ほとんどなかった。クラス内カーストで中流階層ちゅうりゅうかいそうに位置していた俺は、常にクラス内での一番の権力者である、いわゆる『ヤンキー・不良』達の目につかない範囲で行動をしなければならなかったからだ。

多感な中学生は恐ろしい。

数年前にニュースでも聞いたが、クラス内のイジメやイジりは時として人を殺しさえしてしまうのだ。

くれぐれもその対象とならないよう、なるべく平和な日々を過ごしていた俺にとってその目が届かない場所が『部活』だった。

ただまぁ、ありがたいことにそこで出会ったバドミントンに面白いほどのめりこんだ訳だが。


中学のように、楽しいけれどもどこか退屈。そんな日々は送りたくはない。

毎日羽をのばして、うんと楽しめるようにしなきゃ。

その雰囲気がヤド高にはあると直感で感じ取ったのだろうか。



お祝いに買ってもらった、当時としては最新の『iPhone 4s』をポケットに入れ、

高校に入ったらいったい何をしようか、理想的りそうてきな学校生活とやらをイメージしながら近藤晃は黒の学ランに身をつつみ、入学式の道のりを行く。



』を過ごすために。






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