第113話、現れた敵
特に休む必要もなかったけど、一応夜までは体を休めておいた。
そして、これからはお楽しみ、襲撃の時間だ。
ロスメルタによれば相手方の会合が行われてるのは、ノヴァーラ組とジュリアーノ組の緩衝地帯にある、とあるビルだ。荒廃した王都にあっても再建された立派なホテルみたいな建物らしい。
あらかじめの仕込みによって警備は手薄になるらしく、正面から堂々と乗り込むのはクリムゾン騎士団の役目になる。
騎士団にそいつら幹部の打倒、もしくは捕縛を任せて、私たちキキョウ会は別のことをやる。
向かう先は同じビルだけど、キキョウ会は裏口から乗り込んでそこで待機するんだ。
情報によれば、背後を突くように別の敵が現れる。そいつらがキキョウ会の相手だ。
時はまだ宵の口。夜更ししなくて良さそうなのは歓迎できる。
「お姉さま、時間です」
「うん、行こうか」
白銀のバットをベットの脇から持ち出すと、ヴァレリアと一緒に部屋を出た。
クリムゾン騎士団はその大多数が襲撃のために出撃する。すると、僅かに残った少数がロスメルタと拠点防衛のために残ることになる。
その代わりにキキョウ会から、防衛のための人員として多くを残すことになる。こっちのボスであるロスメルタは絶対に守らなくちゃいけないから、キキョウ会としては大きな戦力である幹部もここに残さざるを得ない。
外敵退治はクリムゾン騎士団がメインの戦力として活躍する必要があるから、団長をはじめとして主戦力は襲撃に行くことになってる。キキョウ会が守備に人員を割くのは、その代わりってことになるわね。
残る幹部はオフィリア、アルベルト、ミーア、ジョセフィン。それからコレットさんも。若衆も大部分は拠点に残す。襲撃におけるキキョウ会の役割は限定的だから、大勢で行く必要がないんだ。
行くのは私、ヴァレリア、グラデーナ、それから第三戦闘班と戦闘支援班の若衆から一部を選抜して率いる。グラデーナは留守番が多かったから、今回ばかりは絶対に行くといって聞かなかった。本当なら副長代行には拠点に残って欲しかったんだけど、会長の私こそが残れよって言われると、何も言い返せなかった。
「アルベルト、ここは頼んだわよ。何もないはずってことらしいけど、万が一にもロスメルタがとられたら終わりだからね」
「こっちは心配するな。オフィリアとミーアが外で見張ってるし、攻め込む敵がいても中までは入って来れないだろうな」
あのふたりの見張りを誤魔化せる奴なんてそうそういるもんじゃない。敵を発見したら即時殲滅するだろうし、本当にアルベルトまでは出番が来ないかもしれない。まぁ敵襲の可能性自体が低いらしいけどね。
心配するよりさっさと終わらせて戻ってこよう。
「じゃあロスメルタ、そろそろ行ってくるわ。サービスで騎士団のお守りだって引き受けてやるわよ」
「騎士団はフランネルがいますから心配いりません。それよりも、彼らの相手をお願いしましたよ。あなたに言う必要はないかもしれませんが、気を付けて」
こっちの方こそ心配無用だ。
「フランネル、道案内よろしく。さっさと片付けて帰ってくるわよ」
「言われるまでもない。騎士団、出るぞ!」
まだ灯りのある時間だし、無駄に目立つことはない。デルタ号は出さず、いくつかのジープに分乗して目的地を目指した。
特に妨害もなく、普通にビルの前に到着する。本当ならこれはおかしい。
大組織の幹部会が行われてるビルの目の前なんだ。警備の人員が何人もいるのが当然だろう。それが全くないってことはロスメルタの仕込みが上手くいってる証だ。
「ちょっとフランネル。一応だけど、なにかあったら応援呼びに来させなさい」
「ロスメルタ様も仰っていたが無用な心配だ。こちらは我々に任せてもらおう。撤収も手筈通り各自で。こちらを気遣ってもらう必要はない」
「あっそ。じゃあ気にしないことにするわ。それじゃ」
まぁこいつらなら大丈夫だろう。私も妙に心配性になったもんだ。
正面からはクリムゾン騎士団が乗り込む。さすがに内部にまで相手方の戦力が皆無ってことはないだろうから、途中途中に戦闘は起こるだろう。
裏口からはキキョウ会が乗り込む。あとからやってくる敵を迎え撃つためにね。邪魔になりそうなのがいるなら、その前に排除しておきたい。
人影のないビルの裏口に回ると、例によってドアを破壊して侵入する。
魔力感知によれば、今のところ周囲に人はいない。
「さてと、敵のご到着まで待機ね」
「本当に来るんだろうな? 空振りだったら、がっかりし過ぎてビルごとぶっ壊しちまうかもしれねぇぞ」
うーん、長いこと留守番ばっかりだった影響かグラデーナがいつも以上に物騒だ。
「あんたね……。ロスメルタが自信満々に言ったんだから大丈夫よ。そこまで言うなら、今日はグラデーナに大物は譲ってやるわ」
「いいのかっ!? いくらユカリでも、一度口にしたからには守ってもらうぜ? へへっ、楽しみだな」
急に不機嫌な顔から嬉しそうになるグラデーナ。イカツイ女のくせに、笑うとちょっとだけかわいい。それにしても、こんなことで上機嫌になるなんて度し難い戦闘狂ね。
「わたしも何人かもらいます」
「会長、姉さん、あたしらにも残しおいてくださいよ?」
なんか、みんなストレス溜まってるみたいね。しょうがない、今回はみんなに譲ってやるか。
どこか遠くから騒がしいような物音が聞こえる。
クリムゾン騎士団の襲撃が始まったんだろう。そして、こっちもお出ましのようだ。
ビルの裏口は、裏口とはいえかなり大きい。搬入口のようなのが本来の用途なのかもしれない。私たちがぶち壊したそこから姿を見せたのは、二十人ほどの集団だ。どいつもこいつも重武装で戦う気満々って感じで、しかも予想よりも大分数が多い。別にいいけど。
奴らは待ち構えてた私たちを見て驚いたようだけど、逃げるつもりもないらしい。上等よ。
「……これはこれは。キキョウ会の皆さんじゃないか。奇遇ってわけじゃなさそうだな」
「まさか。あんたらが来るのを律義に待ってたのよ。女を待たせるなんて、やっぱり男どもは心構えがなってないわね」
「いや、女が男を待つなんて当然だろう? それより、俺たちはそっちと敵対するつもりはないんだがな。俺たちの目的は赤い騎士団だ。手を引く気はないか?」
「あんた馬鹿? そんなつもりがあるなら、わざわざこんなところで待ったりしないわよ。いつかの戯言を後悔させてやるわ。えっと、あ~っと、あんたのあだ名みたいのなんだっけ?」
「ゴーストだっ! いいかお前ら、あのふざけた女は俺がやる。他は適当に殺せ」
そうそう、ゴーストだったっけ。こいつはゲルドーダス侯爵家の男だ。かつての王家の暗部を司る侯爵家、その中で実行部隊を統率する男。
得体の知れない実力を持つ奴で、我がキキョウ会の私はともかく幹部なら倒せると豪語した奴でもある。それを確かめてやろうじゃない。今だって面白いことをほざいてたしね。
「あんたの相手は私じゃないわ。もしもの話だけど、ウチのグラデーナを倒せたら相手してあげてもいいわよ」
「おう、お前なんぞがユカリとやろうなんて百年早いぜ。あたしが遊んでやるよ」
「……なかなかいい女だぜ。そこまで言われちゃ断れないか」
ゴーストはグラデーナを慎重を見定めて、どうやら簡単にあしらえる相手じゃないって思ったようだ。グラデーナの身体強化魔法は、まだ五分ってところだけどね。
「へぇ、お前、ゴーストだったか。なかなか分かってるじゃねぇか。ちょっとだけなら手加減してやってもいいぜ?」
こっちはもう任せよう。グラデーナの獲物だ。
それよりもちょっと気になる気配がある。
「ヴァレリア、気づいてる?」
「はい、お姉さま。何人か借ります」
そういって五人だけ連れだって駆けていくヴァレリア。
薄っすらとした気配だったけど、私たちは誤魔化せない。別の入り口でもあったのか、こっそりと忍び込んでる奴らがいるんだ。ゲルドーダス侯爵家の別動隊かもしれない。そっちはヴァレリアたちに任せてしまう。
私は三段構えの敵襲を警戒して、魔力感知に集中を割く。あるかどうかも分からないし、これ以上はないとは思う。それでも、不意打ちには警戒しなければ。キキョウ会はここじゃ余所者なんだ。地元の勢力を甘く見てはいけない。
「みんなも適当に暴れてきなさい。でも、危ないと思ったら私が手を出すからね? 精々気張りなさいよ」
「うへぇ、会長に手を出されちゃ、せっかくの機会が台無しですよ。もったいない!」
「気合を入れていこう! あたしたちだけで残りは片づけるよ!」
なんか若衆も気合入ってるみたいだし、もう任せてしまおう。私は周囲の警戒に努めながら、最悪の場合のフォローに備える。
それにしても、警戒だけで終わってしまうと白銀の超硬バットを持て余すわね。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます