第67話、金の稼ぎ方

 金は大事だ。

 何よりも大事とまでは言わないけど、優先度はそれなりに高い。

 ないよりもあったほうが良いのは誰だって分かってくれるだろう。あり過ぎるために身を亡ぼす奴もいるけど、それはまた別の話。

 使途は様々あるし、いくらあっても困ることはない。少なくとも私は。


 私たちキキョウ会のシノギは次の通り。

 ・みかじめ料(六番通り、稲妻通り、雷神街の三カ所分。雷神街は稲妻通りと隣接した旧ロジマール組のシマで、キキョウ会では通常、稲妻通りと一緒くたにされる。)

 ・恐喝(主として、キキョウ会のシマでふざけたことをした商人に対して行う迷惑料の徴収。その他迷惑行為への請求も含む。)

 ・フロント企業の運営(酒場と花屋の営業収入)

 ・賭博場

 ・企業対象暴力(主として、キキョウ会からの利益を享受しておきながら、敵対的な行動をとる商会への報復行動。暴力を背景にした強請とも言う。)

 ・上納金(キキョウ会所属メンバーの個人収入からの徴収。私がやってる金属糸やインゴットの売却も含む。)

 ・商業ギルドや支配下のシマからの依頼の実行による労働報酬

 ・その他


 ちなみにキキョウ会では上納金の額によって地位が高くなったりはしない。

 あんまりにも稼いでくるのがいれば、何かポストを考えてもいいけど、今のところ個人で大きく稼ぐのはリリィくらいだし予定はない。



 他のファミリーや組がやってるのだと、次のような資金調達方法もある。

 ・麻薬取引

 ・武器取引(違法魔道具の取引含む。)

 ・廃棄物の不法投棄

 ・マネーロンダリング

 ・売春

 ・闇金融

 ・詐欺

 ・貨物の窃盗、略奪

 ・密輸

 ・レコードカードの偽造

 ・ブランド品の偽造

 ・興行収入

 ・人身売買

 ・誘拐と身代金

 ・民事介入暴力


 他にもあるかもしれないけど、こんなところかな。

 私たちとしては、いずれ興行収入や売春ビジネスには手を出していきたい。まだまだ無理だけどね。


 売春については、特にエクセンブラの売春婦側からの要望が強い。これは現状、最も厳しい搾取にあってる職業だ。

 キキョウ会の配下になれば、待遇の改善につながるとの希望的観測があるんだろう。

 見込める利益を考えても、私たちに否応はない。だけど、ノウハウが全くないんだよね。

 だからこそ王都にいるカロリーヌを頼みにしてて、合流してくれたら着手しようと考えてるんだけど、今はまだ無理。

 ついでに言えば色街の場所は遠いし、そこを仕切ってるファミリーとの軋轢も今は避けたい。



 キキョウ会の稼ぎ頭は何と言っても、やっぱり賭博場だ。ここは稼ぎの桁が違う。

 常連の上客が多くなったこともあるし、その上客が連れてくる羽振りの良い客も格好のターゲットだ。

 キキョウ会の賭博場は一種のアミューズメント施設。例え博打に負けたとしても、存分に楽しめるのがウチの売りだ。

 勝っても負けても楽しい、家族連れでも単独でも、老若男女だれであっても、一流のディーラーとフロアスタッフたちが全力で持て成し楽しませる。


 繁盛して嬉しいんだけど、昨今は外国からの客も増えて、混雑が見られるようになってきてしまった。

 この状況はウチの賭博場のポリシーに反する。

 そんなわけでキキョウ会の賭博場は、近く拡大のための改装工事と、第二営業所を開店する。

 ウチへの就職希望は、ディーラーも含めて以前とは比較にならない倍率になってる。わざわざ外国から就職にやってくるのもいるくらいだからね。

 人手の問題はむしろ、希望が多すぎて断らなければならない事態に陥ってることだ。

 軽々に判断はできないけど、第二営業所の開設と並行して、第三営業所の計画も進めたほうがいいかもしれない。



 今日も今日とて金を稼ぐ。

 経済活動は地域社会を発展させる上で最大の貢献と言ってもいい。金を稼ぐという行為は、個人の趣味に留まらず波及するところが素晴らしい。

「ユカリ、商業ギルドのジャレンスさんがお越しになっていますよ」

「もうそんな時間か。すぐに行くわ」

 自室で知り合いの金持ちに頼まれた魔法薬の実験中、フレデリカが来客を伝えにきてくれる。

 今日はジャレンスから相談があるとかで、時間を取る約束をしてたんだった。

 急用みたいだったけど、厄介事かな。


 適当に魔法薬と器具を片づけると、事務所の応接スペースに向かう。

「ユカリノーウェ様、本日はお時間を頂きありがとうございます」

「固いことは言いっこなしよ。あんたには世話になってるしね」

 今やキキョウ会から商業ギルドへ流れる金額も相当なものがあって、ジャレンスのみならず他の幹部からもキキョウ会は一目置かれるようになった。それに応じてジャレンスの発言力も増してるらしい。

 さてと、畏まって一体何の用件だろうね。



 通り一辺倒の前置きと挨拶をすると、ジャレンスに今日の本題を促す。どことなく急いでそうな感だし、きっと早い方がいい。

「それで? なんか言いにくそうだけど、相談て言うのは何?」

「……実は先日、融資をした商会があるのですが、問題が起こっていまして」

 融資ね。返済でも滞ってるとか。私は口を挟まずそのまま話を聞く。

「外国に本店のある商会の支店を、エクセンブラにも設立するという話があったのです。紹介状や書類、責任者のレコードカードも問題なく、商業ギルドの規則に従って融資の手続きを進めました」

「商業ギルドにとっては、通常の仕事内容ね」

「はい。ですが融資後に少し経ってから、職員からの通報がありました。その通報を受けて実地調査を行ったところ、商活動どころか、支店の開設も全く進んでいない状況でした。その代わりに武装した集団が支店予定地に駐屯していて、商業ギルドの調査を全く受け入れない上に会話も成り立たないのです」

「つまり、支店の開設ってのは噓だったってこと? 融資だけさせて踏み倒そうとしてると。あるいは理由は不明だけど、その武装集団が実力で占拠してるとか」

「せめて申請時の責任者と話ができれば良いのですが、それも不可能な状況です。しかも連中、撤収の準備を始めているのです。いなくなった後、商会の関係者が出てくればいいのですが、誰もいなくなってしまうと問題です」

 計画的な詐欺か、予期せぬ武装集団の占拠か。いずれにせよ随分と大胆なことをするもんね。


 そして、とんずらされる恐れありと。それって急がないとまずい状況じゃない。

「ちなみに担保は?」

「……本店が著名な商会でしたので、今後の付き合いも考えて担保はありません。言い訳をするようですが、これも商業ギルドの慣例になります」

「なるほど。もうひとつ良い? エクセンブラ守備隊には相談した?」

 守備隊の副将軍はキキョウ会の息が掛かってるからね。働かないようなら尻を叩いてやる。

「それはもちろん。ですが、守備隊や商業ギルドの自衛戦力では、太刀打ちできないように見受けられました。それに時間の猶予もありません」

 そいつらが撤収してしまったらもう手遅れ。自前で用意できる戦力じゃ力不足。

 詐欺の場合、どこぞの商会ってのは出鱈目だ。偽造書類でも掴まされたってことになるわね。

 そこで頼れるツテがキキョウ会ってわけか。


「ジャレンスさんは詐欺と武装集団の乗っ取り、どっちが可能性高いと思う?」

「どちらも可能性は否定できませんが、おそらくは詐欺でしょう。タイミングが良すぎます」

 そうだね。私もそう思う。

 どっちにせよこのままじゃ金は戻ってこないだろう。急を要する今は考えてる状況でもない。

 それに詐欺でも乗っ取りでも、武装集団を締め上げれば分かることだ。


 でもちょっと気になるわね。

「詐欺だったとして、ジャレンスさん。こんなミスをするなんて、あんたらしくないと思うんだけど、何かあったの?」

「お恥ずかしい話なのですが、実際に書類審査をしたのは部下である甥なのです。ですが、その甥も姿をくらませました」

「そう。こう言っちゃなんだけど、ハメられたってわけね」

「後から考えれば、不自然なところもあったように思います。ですが最終的に決断し、融資を実行したのは自分自身ですからね。責任は取らねばなりません」

 どうやら商業ギルド内の権力闘争の一環みたいね。甥が実行犯てのは気になるところだけど。


 とにかく、ジャレンスが失脚すれば私たちは重要なツテを失うことになる。そんなことはさせない。

 要はその不良債権をきっちり回収してくれば、最悪の事態は免れるってわけね。それでもジャレンスにいちゃもんつけるなら、キキョウ会が出張ってもいい。

「そいつらが外国からきたかどうかも、本当かどうか分からないわね。でも逃げる前に確保できれば、後でゆっくりと調査もできる」

「やって頂けますか」

「問題ないわ。その金、全部まとめて回収するから。ついでに報酬もそいつらから貰うことにするわ」

 一応、金と言っても現金ではない。商業ギルドが発行する、融資用のレコードカードになる。

 そのレコードを取り返せば、ひとまずはオーケーだ。

「有難うございます。報酬の件は、個人的にでも必ずさせて頂きますので」


 さてと。今すぐに出せる本部の戦力は、私とヴァレリア。あとはグラデーナにオフィリア、シェルビーを筆頭にした戦闘支援班の各員が地下で訓練中のはず。敵戦力がはっきりしないから、新入りの見習いたちを連れて行くのは止めておいたほうがよさそうね。

 もう少し戦力が欲しいけど、相手にとんずらされてたら意味がない。すぐに出撃できるメンバーだけで行こう。

「ヴァレリア! 出撃するから準備して。誰か地下のグラデーナたちにも伝えて! すぐに出るわよ!」

「はい、お姉さま!」

 自分の事務机で待機中だったヴァレリアが即座に武装を整えに走ると同時に、他の事務班見習いメンバーが地下に向かって走り出す。

 私も自室に一旦戻って準備をしよう。


 手早く準備して事務所に戻るとすでに全員が集合済み。早いわね。

 グラデーナたちは訓練中だったせいか汗をかいているし、まだ高揚してるみたい。実戦を前に気が高ぶってるみたいね。

「時間がないわ。説明は移動しながらジープの中で」

「おう!」

「ジャレンスさんは道案内頼んだわよ」

「はい。皆様、どうぞ宜しくお願い致します」



 シェルビーの運転する大型ジープに全員で乗車すると、経緯と状況を説明する。

 ジャレンスはシェルビーの横でナビ中だ。

「武装集団か。面白そうじゃねぇか」

「少しは骨のある連中だといいけどな」

「今日はお姉さまと買い物の予定があります。早く終わらせましょう」

「いつもサポートが多いですし、実戦は久しぶりです! 楽しみですね」

 みんなの相変わらずの闘争心はやっぱり心地良い。私も実戦を前に少しだけテンションが上がる。

「お金、無事に回収できるといいですけど、使い込まれていたらどうするんでしょう」

 その時はその時。できる限りの回収ってことになるわね。

 最悪、連中が持ってる武装や魔道具を売り払えばそれなりの額にはなるだろう。


 はやる気持ちを持て余しながら車内で到着を待つ。

 思ったよりも長い時間が経過して、まだかと思った頃合いにシェルビーが到着を知らせる。

「みんな、そろそろ着くみたいっすよ!」

 キキョウ会のシマからはかなり離れた場所。どこが仕切ってる場所かは分からないけど、構うもんか。


 たどり着いたのは、敷地は広そうだけど上は二階までのボロい建物。

 立地の良し悪しは分からないけど、有名な商会が支店を作るなら建て替えが必要なレベルのオンボロで酷い荒れようだ。

 脇の空き地にトラックやジープがいくつも並んでるのを見ると、まだここにいるのは間違いない。そして移動用魔道具の台数からして人数も多そう。

 建物の前には、当然のように見張りがいる。あれは邪魔ね。

 外に迷惑をかけると、どんな波及があるか分からないから建物内だけでケリをつけたい。


 すっとさり気なく入り口前にジープを横付けさせると、見張りをグラデーナが雷魔法で音もなく昏倒させる。問答無用の早業だ。

 上出来、上出来。後はお楽しみの殴り込みだ。

「シェルビーはジャレンスさんとジープの守りを」

「はいっす。入り口前で何かあれば合図するっす」

「残りの支援班は一階の敵の掃討と確保を。片付いたらシェルビーと待機して。誰かがくるかもしれないから警戒は厳に」

「お任せください!」

「残りは私と上に行くわよ。何もやらせず、一気に片付ける!」

「おう!」

「久々の殴り込みだ、腕がなるぜ!」

 今日は入り口を破ったりはしない。両開きの扉を開いて普通に侵入する。

 さて、ひと暴れの時間ね。

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