第39話、増えすぎたかも
グレイリースの仲間の救出からキキョウ会本部に帰還すると、事務所では心配で待ちきれないように部屋から出てきた少女愚連隊が出迎えた。
助けてから眠ったままの仲間を心配そうにしながら見守って、今は大部屋で一緒に眠らせてる。
時間も遅いから私たちもさっさとシャワーを浴びて眠る。明日も通常営業で見回りはあるしね。
翌朝、事情をよく知らない見習い組に少女愚連隊が滞在してることと、おおよその事情を聞かせてやる。
見習いは今日も訓練漬けだから関わることはないと思うけど、知らない顔が本部の中にあると不安に思うかもしれないからね。
少女愚連隊には今日中にどうするのか決めさせる。あとは偶然一緒に助け出した娘がどうなるかね。まだ眠ってるみたいだし、起きたら話を聞いてみないと。今日はソフィには外での研修は休ませて、本部で彼女たちの様子を見てもらってる。
私は昼前までは集中して事務所の執務机で薬魔法の実験を繰り返す。待機中は暇だし、これが意外と魔法実験がはかどる。
地下訓練場ではポーラが見習いの訓練を見てるし、上の階ではソフィが身元不明の女の子たちの様子を見てて、グレイリースと少女愚連隊は朝食にも降りて来ずに話し合いをしてるらしい。
ポーラたちはそろそろ食堂に移動する時間かなと考えてると、上からソフィと懐かしの収容所の制服を着た三人の女の子が下りてきた。収容所から持ってきた服や下着は、使ってない余りがたくさんあるからこういう時に役に立つ。
「ユカリさん、お待たせしました」
「大丈夫よ、ソフィ。その娘たちから何か聞いた?」
「はい、簡単にですが。三人とも最近エクセンブラに来て、そのままスラムに居ついたところだそうです。身寄りも帰るところもないのだとか」
「そう。ウチで面倒見てあげてもいいけど、特別待遇はできないわ。どっちにせよ、ウチに入るなら鍛えてないと危ないしね。ソフィからその辺りの説明してもらえる?」
「他の見習いの皆さんと同じですね」
「そうなるわね。訓練後にどの担当になるかは本人の意向をなるべく尊重するけどね。お腹も空いただろうし、食堂に行くかどっかで食べながら話してきたら?」
「ではそうして来ますね。さ、行きましょう」
ソフィは女の子たちを促して外に出かけていく。暗い顔の三人から一応はお礼らしきものを言われたけど、まだ半分呆けてるようでショックからは抜け出せてないようだ。もしウチに入るつもりなら、訓練の時には活を入れないと怪我するわね。
出かけたソフィたちを見送ってから、魔法実験が切りのいいところまで終わると、昼も大分すぎたいい時間に。
「……まだ誰も帰って来ないけど、私もそろそろ食堂に行こうかな」
立ち上がって外套を羽織ってると、今度は少女愚連隊が下りてきた。魔法実験に夢中になってて忘れてたけど、そういやまだいたわね。
「話し合いは終わり? それとも一旦休憩?」
「あ、終わったところです。お待たせしてすいません。あの、お昼ですか? 一緒に行ってもいいですか?」
「いいわよ。あんたたち朝も食べてないしね。話は食べながら聞かせて」
様子を見る限り、色よい返事が返ってきそうね。
食堂に移動すると、勢いよく食べまくる少女愚連隊。健啖家の私も驚く勢いだ。おばちゃんはてんてこ舞いだけど、嬉しそうに給仕してる。
昨日助けた女の子たちも表面上は普通に振舞って、みんなと一緒に食べまくってる。空元気でも元気は元気。ひとまず安心してもよさそうね。
「ユカリさん、まずはお礼を」
「それはもういいわ。昨日も聞いたし。それで、どうすんの?」
「はい、あたしと一緒にキキョウ会に入るってことになりました」
まぁ、そうなるだろうね。リーダーのグレイリースはウチに入るわけだし、スラムに戻ったところで危険であることに変わりはない。そこから抜け出すチャンスだってそうそう転がってるわけじゃないんだ。
「そう、それは良かった。詳しいことは昨日フレデリカから聞いてるだろうし、私から言うことは特にないわ。あんたたちはキキョウ会の見習いってことになるけど、他にも募集したばかりで見習いはたくさんいるわ。今夜まとめて紹介するから、その時にね。ああ、そうだ。今日はこの食堂は貸し切りにしてもらおう。おばちゃん!」
「はいよ!」
追加のスープを持ってきたおばちゃんを近くに呼んで、今夜は貸し切りにできるか聞いてみる。
「もちろんいいさ。一番のお得意さんだからね! 新入りの娘たちかい? ユカリちゃんたちも、かなり大人数になったもんだねぇ」
ホントにそう思う。グレイリースたちを合わせると見習いだけで四十人くらいは抱えてるからね。
「まだまだ成長してもらわないとね。今夜は全員で一緒に来るわ。人数も多いし、先に料金は払っておくわね」
「毎度あり!」
キキョウ会本部に戻ると、どこに行ってたのかソフィたちはすでに戻って、さっそく色々と質問タイムに突入してるらしい。
そうなるんじゃないかと思ってたけど、三人娘もウチの見習いになるようね。
この娘たちについてはちょっと部屋割りに悩んだけど、三人から少女愚連隊と同じ大部屋にして欲しいと申し出あった。外で食事をして、今は賑やかな方が気が紛れていいと思ったんだとか。
まぁ同期の見習い同士仲良くやってくれたらいい。それに余計なことを考える暇もないほど訓練でしごいてやろう。
夜になって、見回り組と学習組が戻ってくると全員で食堂に移動する。
見習い同士は初対面も多いから、最初にざっとまとめて紹介して、あとは個人個人で勝手に歓談してもらう。
最初はどこか遠慮がちな様子の見習いたちだけど、まぁ一応は会長の私やグラデーナたち強面も一緒にいるからね。いきなりはっちゃけたりは、なかなかできないだろう。
でも、だんだんと酔っ払ってくると気が大きくなるか、それに応じて喧嘩をおっぱじめるのが出始める。私としてはコミュニケーションの一環として、やりすぎない限り別に止めはしないけど、食堂に迷惑はかけたくないし鬱陶しいから外に摘み出す。外でなら思う存分暴れなさい。ちなみにサラちゃんは少女愚連隊の同じような年の子と早速仲良くなったみたいで、みんなして楽しそうにはしゃいでる。
「ふぅ、元気がありすぎるのも困ったもんね」
「何言ってんだ。収容所の頃はユカリだって良くやってたじゃねぇか」
「あの頃からお姉さまは素敵でした」
そう言われてみれば、喧嘩なんてまさに日常茶飯事、良くやってたもんよね。なんだか懐かしい。
「それにしても大所帯になったな」
「ひよっこばかりでまだ使い物にはならないけどな」
「取り敢えずの人数はこれで揃ったし、訓練は本格的にやるか」
「基礎訓練はできるだけ早く完了させてしまいたいですね。その後には戦闘訓練だってありますし」
まだまだ予断は許さないけど、取り敢えず頭数は揃って人数的には今は十分だ。あとはキキョウ会の一員として育ってもらわなければ。でも焦ってはダメだ。ゆっくりと育てていこう。
「そうね。明日は私が訓練に立ち会うわ。グレイリースたちも加わるし、いい機会だから気合を入れさせるわ」
「おー、鬼教官の登場だぜ」
鬼教官でも鬼軍曹でも結構。命かかってるからね、手は抜けない。
「はっきり言って、まだキキョウ会を舐めてるのもいるだろうかね。一回締めておこう。ちょっと考えがあるから、明日の訓練はソフィも付き合って」
「わたしですか?」
戦闘班じゃないソフィは不思議そうに自分を指差す。
「キキョウ会がどんなところなのか思い知らせるには、ソフィが適任でしょ?」
「確かにな。あたしらが軽くひねってやるより、よっぽど効果があるかもな」
キキョウ会メンバーはソフィたち戦闘班じゃないのも日々の訓練を怠ることはない。特に護身術に特化してるから、近距離での対人戦は一般的なレベルから見てかなり強い。身体強化魔法のレベルだって見習いたちとは比べるべくもない。
「だが見習いが使えるレベルになるまではかなり時間がかかるだろう? メアリーみたいに急激に強くなるとは思えんし、それまで人手不足は続きそうだな」
「訓練で妥協はできないから、時間はかかるわね。だけど、人手はちょっとだけ補充できるかもしれない」
まだ見込みとも呼べない、希望的観測だけど。
「当てがあるんですか?」
「手紙の返事がもう少ししたら来ると思うんだよね。私とジークルーネが出したやつ」
ジークルーネが頷き、みんなも期待を寄せる。
「まぁ向こうの都合もあるだろうし、ウチに加わってくれるとは限らないけど、もし来てくれるなら即戦力だからね」
傭兵のゼノビアは戦力的に大きなプラスになってくれるし、王都で娼婦の元締めをやってたカロリーヌはエクセンブラの色街に手を出すプランに持ってこいだ。オフィリアたち冒険者や、ジークルーネの知り合いの元青騎士も即戦力になる。
本当に来てくれると助かるし、ありがたい。うーん、やっぱり期待してしまうわね。
「ま、少しでも来てくれれば御の字だわな」
「ゼノビアたちか。久しぶりだな」
「元青騎士の方も楽しみですね。やっぱりジークルーネさんのような感じなんでしょうか」
「強い奴はいつでも歓迎だ」
私としては強さはもちろんだけど、それ以外に一芸に秀でるのが色々集まると面白いと思ってる。
花魔法なんてユニークな魔法が使えるリリィなんてその典型だ。見習いは人数も多いし、全員を詳細に把握してるわけじゃないから、何か面白い能力を持ってるのもいるかもね。その辺は楽しみにしておこう。
今日は大所帯になったキキョウ会が一堂に介して、飲んで食べて大いに楽しんだ。また明日から頑張ろう。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます