第1幕〜終わりの始まり〜
「ねえ、私ね。この先未来がないとしても私は貴方を愛してるよ。
たとえ貴方が世界中から嫌われても、私だけでも貴方を好きでいます」
彼女の柔らかい黒髪が、僕の手に触れる。
“だから……私に※※をくれない?」
彼女の吐息が僕の首筋にかかった。
僕は※※れている。そう思っていても、
僕はやはり……君が好きなんだろう。
こんな誰からも嫌われ続けた僕を好きでいる人がいるのなら、ここまで幸せなことが……あるのだろうか?
それが例え。※なことだと知っていても……
───僕の名前は加藤輝かとうひかる。伊都芽沢高校いとめざわこうこうに通う2年生。
きっと僕のようななんの特徴もない人を主人公にするとしたら、作者はよっぽどの物好きなんだろう。
特に得意なスポーツもないし、趣味は読書とゲームをすること。コミュニケーションも必要最低限しかしない。周りに言わせればそこらの虫と同じだろう。
僕は誰にも必要とされない。
家族は4人家族で下に中学生の妹がいる。
妹はスポーツ万能でそれが少しコンプレックスでもあるのだが。今になってはどうでもいいことだ。
毎日を平凡に生き、まるでゾンビのように時間を浪費していく毎日。それが少し退屈と感じはするが、何か新しく始めようと思うわけもなく、今日も何事もなく家に帰る……はずだった。
いつもの帰り、ふと商店街に見たこともないとても悪趣味な雰囲気の店が目についた。
例えるならば、呪いやら占い、幽霊だとかそういった胡散臭いものを思わせる店だった。
途端、何かに引きつけられるような感覚が身体を襲い、そのまま店の中へと入った。
そこには印象通り、悪趣味なネックレスや壊れた人形などが辺りに飾られており恐怖を通り越して魅力的にも思えてしまった。
そのとき、この店の雰囲気にはとても合わない美人の女性店員らしき人が声をかけてきた。
「いらっしゃいませ! お待ちしておりました。あなたが16人目最後のお客様ですね!
こちらへどうぞ」
待っていた?! 16人目?! 最後ってなんだ?!
そんな疑問が浮かぶ中、彼女が僕の手を引いて店の奥のテーブルに座らせられた。
そして彼女がテーブルの上に出したのはセツメイ シリョウと書かれた赤と黒色の紙とスマートフォン、そして少し紫がかった指輪だった。
「一体どういうことですか?さっき待っていたとも言ってましたよね。
しかも、このテーブルの物は一体何なんですか?」
僕は状況が飲み込めず、混乱が隠しきれない。
「順番に説明させていただきます。近々、とある儀式が伊都芽沢高校周辺で行われます。その儀式には16人の高校生が選ばれ、皆さんで殺し合いをしていただきます。そこにあなたは選ばれました。
見事、その儀式に勝利した方には! なんと知名度のある昔話を実際に現実世界に再現することができるのです!
例えば、シンデレラのように素敵な王子様と結婚したり。はたまたわらしべ長者となって億万長者になったり。
そのような夢の話を実際に再現することができるのです!
詳しい説明はそちらの資料をご覧ください。」
凛とした。まるで商品を薦めるかのような声で、とんでもないことを言ってのけたのだ。
「そんな根も葉もない話、信じるわけありませんよ。
第一。そんなぶっ跳んでる話信じて何になるっていうんですか?」
「ええ、勿論信じてもらえるとは思っていませんよ。
しかし、もう一つ話には続きがあるんです。
参加者の方は特別な能力を使えるようになるのです。
この指輪をはめていただければわかると思いますが」
「……」
「それにお客様は、日々に退屈しておられるのでしょう?
もうこんなチャンス二度とありませんよ?
今までの生き方を、人生を、変えたいと思いませんか?」
「!? 」
その言葉のナイフが僕の胸に刺さり、ナイフから湧き出る甘い蜜が、僕の心に浸透していった。
もし、本当に。平凡な生き方を変えられるのだとしたら。
こんな、誰にも必要とされない僕を変えられるのだろうか。。
僕は戸惑いながらもテーブルの上の指輪を手に取りはめてみる。
途端、雷に撃たれたような衝撃的な感覚と、何故か自分がどんな能力でどう使えばいいのか。直感で理解できたのだ。
「あなたの能力は一時的に手に触れたもの、もしくは自分自身を周りから認識されにくくなる能力です。
これをどう使うかはあなた次第。
参加者の皆さんには、様々な能力をご用意しました。
これらの能力は使えば使うほど強くなっていきます。
自分の能力を上手く使って、有利に進めてくださいね。
その資料にはルールや注意事項等様々なことが書いてあるので必ず確認しておいてください。
説明が長くなりしたね、申し遅れました。
私の名前は葛西と申します。以後お見知りおきを。
いろいろ聞きたいこともあると思いますが、明日午後9時から市民会館にて参加者の皆さんに質問会を開きますので、必ずいらしてくださいね」
と言ってそのまま店を追い出されてしまったのだ。
つい数分のことだったが、どうも現実からかけ離れすぎて頭がついて行かない。
「取り敢えず、帰って寝るか」
そんな呑気なセリフを吐いてみる。
きっとなにかの夢だろう。そう思いながら残りの時間を過ごし、今日を終えた。
────それが加藤輝にとっての始まりであり、終わりでもあった出来事であることを、彼はまだ知らない……
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