ガチ霊道
別府崇史
ガチ霊道
フリーターである春田さんは以前コンビニでバイトをしていた。
八王子駅からはやや離れた、さほど大きくない交差点にあったそのコンビニでは怪異現象としか呼べないものが頻繁に起きていたという。
来店者がいないのに入店チャイムが鳴る。
商品の陳列中、肩を叩かれる。振り返っても誰もいない。
店内には誰もいないというのに、棚の影から「すいません」と聞こえる。
客が一人か二人しかいない時でも、まるで団体客がいるかのような気配がする。
春田さんと同時期に働き始めた男の子は一週間もしないうちに辞めた。
オカルト的なものを信じていない春田さんでも流石にこれはおかしいと思い、数ヶ月先輩の同僚に質問した。
――ここ、おかしくないですか?
同僚の男性は目線を泳がせた。
「店長には聞いた?」
「いえ。聞いてもはぐらかすだろうから、聞いてません」
「そりゃそうか。まぁ……良くないものがいるんだと思うよ」
なにか知っているんですか? と重ねて聞く春田さんに、同僚は渋々と答えてくれた。
「霊道だって」
「え?」
「霊道。幽霊の通り道。うちの叔母さん、まぁその手のものに詳しくて……。んで言うんだよ、『あんたのバイト先には霊道が走ってる』って。マジもんのはっきりとした、ガチの霊道だって。どっからスタートしてて、死んだ奴らがどこ向かっているのかまではわからないけど、ともかく走ってるって」
霊道は交差点の斜め向いから走ってきており、コンビニを突っ切っているとのことだった。
春田さんは その話を聞きながら背筋が凍るような思いだったという。
ただ同時に腑に落ちる思いだった。
オカルトなんてあるわけない、と信じていた彼女だが、心の中では霊現象だと理解していたのだろう。
こんなこともあった。
バックヤードで店長と向かい合わせて話しているときだった。春田さんは背中を店内の方に向けていた。
突如店長が鬼気迫る形相で、
「絶対に振り返っちゃダメ」と言った。
何が視えたのか、何がいたのか、結局店長は辞めるまで教えてくれなかったという。
春田さんが辞めた後、しばらくしてコンビニは潰れた。
そして交差点を挟んで斜め向いに並んでいた赤提灯系のお店も、ドミノ倒しのように潰れたという。
話の最後に場所の詳細を聞いた私は、実際に現地に行ってみようと思った。
当のコンビニは潰れており空き店舗になっているということだったので、写真を撮影できないだろうかと考えたのだ。
だが行ってみたところ――ちょうど内装工事が入っていた。これでは写真は載せられないな、と肩を落とした。万に一つでも訴えられたらかなわない。
ほぼ同時に潰れた赤提灯系の店もすでに更地となり、建築されたばかりで無人の賃貸マンションが建っていた。
考えずにはいられない。
――果たしてまともに営業することは可能だろうか。
答えなんてわからず、眼前には郊外の寂寥感漂う光景が広がるばかり。
また調べたところ、その霊道があったと思わしきスポット付近は以前刑場だった――江戸時代、罪人の斬首が行われていた場所である。
これが霊道の発生と関係しているのか、もちろん私にはわからない。
※この記事をアップするため改めて調べたところ、件の空き店舗はコインランドリーになっていた。なるほど、と唸ってしまった。
ガチ霊道 別府崇史 @kiita_kowahana
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