望み通りの異世界転生。志望ははっきりさせといたほうがいいね。
鐘辺完
第1話 「死亡」と「志望」の駄洒落は言わないほうがいい
キョウタは勇者に就職していた。
目の前には魔王スティムリンガーの配下、四十八人いるという『二十八武衆』のひとり、ギャッツバンがいた。
「それが〈はにゃ丸くん〉か」
ギャッツバンが言った。前髪で右目が隠れてるヘアスタイルのぱっと見ナルシストっぽい男だった。
キョウタの腰には日本刀〈般若丸〉があった。
「はにゃまるやないわ。〈はんにゃまる〉や。ちゃんとルビつけとくから覚えといて」
キョウタの頭のてっぺんから光が発し、ネオンサインのように灰色の光が
〈
という文字を空間に本当にルビをつけて表示した。
「その刀の力だけでここまでやってきたようだが」
「いや、あんたが来たんやんか」
キョウタは三日前にようやく落ち着ける仮住まいを得たらそこに訪ねてきたのがこいつだった。
「いくぞ」
〈はにゃ丸くん〉とかなんとか話題を振ってきたのはこいつなのに、なんか問答無用みたいにかかってきた。
「うわ」
キョウタは腰が退けた。と同時に左腰に下げた刀の柄を左手が逆手に握った。手首の可動範囲を無視した軌道で抜刀する。
キョウタは凶刀を鞘に収めた。
「肉を切らせて欲しいヌ」
言ったのは
ちなみにギャッバンは戦闘不能になり、うつ伏せに倒れ伏していたが無傷である。般若丸の斬撃に着衣を全て切り裂かれたため全裸だった。
※
「なんやここ」
「
河原の砂利に横たわる恭侘を見下ろして言うのはグレースーツの女。事務職というよりAVの女教師の雰囲気だった。
恭侘は下から見上げることになったがタイトなスカートの中は見えなかった。
「んー」
頭がぼんやりしていて状況がつかめていない。
「手続きしいや」
とAVの女教師は冷たく言い放った。髪は暗い栗色のミディアムストレート。
「なんの?」
目をこする。
「進路志望」
「学校行ってへんのに」
恭侘は不登校の高校生だった。登校してなくても高校に所属してるので高校生だ。
「学校とかやなくて」
「学校やなくて……」
はっと気付いた。馴染みの花色木綿の布団で寝ていたのに、砂利の上にいた異常に。
混乱して宙をながめる恭侘に、AV女教師は優しく言った。
「あんた。死んだん知らんかったんやね」
AV女教師は三途の川の手前で適当に亡者をつかまえては転生させる仕事をしている人だった。本人は大天使だと言っている。
天使の名前はルミルという。
大天使というのは天使の中で最上位で。ルミル本人の言うにはその中でも彼女は最高位にあり〈神に最も近い天使〉だそうだ。
「なんであんた、俺とおんなじ大阪弁なん?」
「そらあんたの思考言語がそうやからや。わからんか? 北部カリフォルニアなまりのスペイン語が思考言語の人が死んだら、私は北部カリフォルニアなまりのスペイン語でその亡者と話すんや。亡者がわかりやすいように。私が亡者の思考を読んで」
「ほな、俺が死んだん知らんのなんでわからんかったん?」
思考読んでるのに。
「全部まで読めやんがな。脳の容量ってかなりでかいんやで。思考言語しか読み取ってへんに決まってるやんか。あんたの普段のオカズとかまで読んでへんから心配すんな」
「カレーが好きです」
「で、進路志望のことやけどな」
AV女教師改め大天使を名乗る女は、恭侘がオカズの意味を意図的に取り違えていることを無視して本題を進めようとする。
恭侘は女教師もののAVが好きだった。大天使ルミルの姿はそのへんの影響があるんじゃないかとぼんやり思った。
「何になりたい?」
「金持ち」
「金持ちね。じゃあどうやって金持ちになりたい?」
「不労所得」
「うん。えーと。じゃあ、お金に困らない生活だとして何したい?」
天使ルミルは恭侘のだらしない答え方とだらしない回答内容にまったく動じずに質問を重ねていく。
「高校もまともに通えなくてだらだら生活してたから考えたことない」
ルミルは短く嘆息した。
「じゃあ、これから考えよか。あんまり時間ないよ」
「死んだらみんなこんな風に志望を……」
恭侘は言いかけて、ルミルが『適当に亡者をつかまえては転生させる仕事をしている天使』だと思い出す。同時に「死亡」と「志望」の駄洒落が頭に浮かぶが無視した。
「無作為につかまえたんがあんたや」
無作為でないといけないらしい。変に作為があると世界のバランスを崩す者に生まれ変わってしまう。
変に作意を入れると物語が歪んで矛盾が生まれたりするものだ。
ルミルは『私の眼鏡にかなったんやであんたは』と言いたげにビシッと指さした。
ちょっと目が泳いでるように恭侘には見えた。
※
「えーと、『三人くらいの可愛い女の子とキャッキャウフフな生活をしながら、楽勝に悪を成敗する生活がしたい』と」
こんな志望に対し「なめとんのか」とかいう表情はルミルにはいっさいなかった。事務的である。むしろそれはなんか罠が、裏があるんじゃないかと恭侘は思う。
「うん」
志望は事実そうなんだから首肯する。
「はい。じゃあそういうことでいってらっしゃい」
「え?」
恭侘が質問をこれから言葉にしようとした瞬間、目の前がブラックアウトした。
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