マシュマロさんは魔法使い!

五十貝ボタン

勇生のばあい

はじまり

 こんなふうに考えたことって、ある?

 もしなんでもない朝に、空からだれかが落ちてきたら、どうしよう、って。


 こんなふうに考えたことは?

 その日の夜に、自分が空から落ちることになったらどうしようって。

 ぼくは――多加良たから勇生ゆうきは、いままさに、そんな状況だった。


「落ちるー……っ!」

 まるで、ニュートンがみていたりんごになったみたいだ。

 手足をばたばたうごかしたって、つかまるものがあるわけじゃない。

 風がびゅうびゅうと耳元で音をたてている。すそをまくったパジャマがばたばたとからみついてくる。


 おとうさん、おかあさん、いままでありがとう。

 それから、ちょっとだけ、お兄ちゃんも。


 住みなれた街を、考えたことがないくらいの高さからみおろして、これがぼくが最後にみる景色になるんだって、そう思った。

 その景色が、どんどん近づいてきて……


「勇生くん!」

 声。

 ぼくは首をあげて声のしたほうをみる。おりたたんだひがさパラソルにまたがった女の子が、青い目をみひらいて、ぼくのほうへ飛んできていた。


 そう、飛んでいた。


 ふたつ結びにしたながい髪をはためかせ、その子はまちがいなく、そのカサで飛んでいた。

「手をのばして!」

 落下していくぼくのほうへ、女の子が手をのばす。ぼくは、夢中で彼女のほうへ手をのばす。

 手がふれるまで、あと10センチ。

 指と指のあいだを風がすりぬけていくのを感じながら、ぼくはおもいだそうとしていた。


 どうしてこんな、不条理で、不自然で、不本意なことになってしまったのかを……

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