にちじょう

@rainovel

にちじょう

 ピピピピッ、ピピピピッ

 大きい音でなくとも、寝起きには少なくない自己主張をする目覚まし時計。忌まわしいそいつの頭を叩く。再び、穏やかな朝がやってくる。

 二度寝を決め込んでから五分後。眠気の取れない頭で太一は目を開く。

 のそのそと布団から這い出て、それを畳む。まだ半分しか覚醒していない頭が次に考えることは、身支度を整えることだ。

 ぼさぼさの髪型を、ワックスで強引にセットする。一部分だけどうしても直らないのは仕方がない。歯を磨き、寝間着から仕事着――といっても普段着だが――に着替える。朝食を食べている時間なんて当然ない。

 荷物を手早くまとめ、部屋を出る。

 四十分程の通勤時間を経て、太一の勤め先のオフィスへと到着した。

 今日も長い戦いが始まる。

 仕事は、比較的順調に進んでいった。目立ったエラーもなかったし、仕様の変更要請もそれほど面倒なものはなかった。コーディングはすいすい進んでいく。いつもこうだと、気分がいい。

 しかし、残業二時間ほどで帰れるな、と思っていたところで、そいつはやってきた。

 正体不明のエラー。それも大量に。ソースコードを見直したが、原因が全く分からない。

 分からないものは分からないので、落ち着いてデバッグをおこなう。

 一回目。やはり、どこが変なのか特定できない。

 二回目。今度はログを出力させてデバッグしてみる。やはり分からない。

 三回目。また違う部分を出力してデバッグをおこなう。そうしたら、変数がおかしくなっていることに気付いた。おかしい、なぜ配列の要素が空になっている。

 原因が分かった。これは、

「ヌルポぉぉぉぉぉぉぉぉーーーーーーーー!」

 NullPointerException。プログラマなら誰しもが一度は引っかかるエラーであり、また、手だれのプログラマであっても時々襲われる、やっかいなにくいやつだ。

 このエラーで作業が一時間半も奪われてしまった。たったの一行を書き忘れただけで、人生の貴重な一時間半が消え去ったのだ。

 プログラマの日常は残酷だ。

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