第26話 テーブルの下
やはり二人の食卓というのは不思議なもので、過ぎる時間は長いようで短い。
たまに静かになると、それが逆におかしく思える。今まではずっと静かだったはずなのだが。
「そういえば、堕天使になった理由。詳しく聞いてないんだけど」
遥の箸が止まる。しばらくしてから「また今度ね」とそっけない返事だけが返ってきた。何故言えないのだろうか。
テレビでは男女でコンビを組んでるお笑い芸人がコンビ間の喧嘩の話をしていた。それについてMCが根掘り葉掘り聞いていく。
男の方は「理由も分からずに、急にそっけない態度を取られるとそれがきっかけで揉めることがある」と男女の喧嘩でも定番のネタを出してきた。MCも「そりゃ、女性も繊細なところがあるしなー。男はそこらへんの扱い上手くしないといけんしな」と無難な回答だ。
「お前って何されたらムカつく?」
遥の急な質問に良い答えが浮かばない。
「逆に、はる…いや、あの。何されたら嫌なの」
何だかまだ「遥」と呼ぶのには気が引けた。いくら一つ屋根の下と言えど、会ってから日数が浅いことに変わりはない。
遥も逆に聞かれるとは思っていなかったのか、しばらく考え込む。
「なんか、嫌っていうか。自分の存在を認めてくれないのは嫌なんだよね」
「自分の存在を認めてくれない…ってのは例えば」
「そうねー。私の名前をちゃんと呼んでくれないとか?」
そういうと、遥はテーブルの下で拓也のすねを思いっきり蹴った。その痛みと反射で次はテーブルに膝をぶつける。何も蹴ることはないだろうと思ったが、何故か闘争心が生まれてしまっていた。
「お前って呼ぶやつに言われたくないわ!」
拓也はそう言うと、遥のすねのあたりを軽く蹴った。思いっきり蹴らなかったのはなんとなくだ。
その後も、二人のテーブルの下での足の戦争はしばらく続いた。
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