第20話 人間拡声器

拓也の家から渋谷に行くには電車で行くしかなかった。学校の人間に会うのは避けたいことから、学校が終わり次第なるべく早く渋谷へ向かうことにした。

「どこで待ってればいいの」

遥が昼食のパンを食べながら拓也に聞く。しかし、それを聞いていたのは拓也だけでなかった。

「どこで待ってればって…お前ら何かあるのか…」

拓也の前に座っていた光流がぎこちない動きで二人の方を振り向く。よりにもよってあまり聞かれたくない相手に聞かれてしまった。

「あ、いや、部活。部活の見学に連れてく」

「なんだよー。どっか出かけるなら俺も混ぜてもらおうと思ってたのに」

光流が軽くため息を吐く。最悪、こいつにならバレても口に釘刺しておけばどうにかなりそうではあるが、バレたその場で騒がれたら後の祭りだ。こいつは良くも悪くも声が大きい。体育祭の時なんかは人間拡声器なんて呼ばれていたことだってある。

中学校の時はその持ち前の声で紅組の応援団長を務めていた。彼のモテキはそこで終わっている。

「遥ちゃんは何の部活に入るかもう決めてるの」

「まだ決めてないよ」

すっかり学校でのキャラに切り替えている。家でもこういうキャラであったらいいのにと心底思う。ただ家でもこのキャラだとかえって接しづらいかもしれないが。

「うちの部活どうよ。陸上部。遥ちゃん運動できるって聞いたけど、遥ちゃんくらい可愛い子ならマネージャーでも大歓迎」

「んー。じゃあ、見に行くね」

おそらく家で拓也が部活の誘いをかければ「メンドイ」の一言で片付けられるのだろうが、学校ではあくまで使キャラを一貫するつもりだろう。光流が遥の家での様子を見たらいかに落胆するだろうか。



放課後。遥は学校から少し離れたコンビニで待っていた。

「遅いなあ」

「ごめん」

もう学校でのキャラは抜けていた。ここまでオンとオフの切り替えが上手いのは一体人生何週目なのだろうか。そもそも人生というのかは議論の余地があるが。

「アイス奢れ」

「お前金あるやん」

拓也がアタッシュケースを開けるジェスチャーをする。

すると、遥は新発売のソフトクリームのポスターを指さした。もう彼に拒否権はない。

二人はコンビニを出ると、ある程度の距離感を保ったまま駅へ向かった。

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