一番星

スミンズ

一番星

当時の僕は高校2年だった。ある日、僕は友達とふらふらと科学館に遊びにいった。


 「プラネタリウムは300円で御座います」受付のお姉さんがそう言った。300円はおやつさえ買うのを躊躇う僕には大きな出費であったが、それだけしてもプラネタリウムが見たいとやって来たのだから、僕は清々と僕と友人のプラネタリウム代600円を受付に支払った。今日は友人を僕が誘ったということで、友人分も払ってあげることにしてたのだ。


 その日は日曜日と言うこともあり、お婆さんが小さな孫を連れて歩いていたり、家族連れや、僕らと同じく友人同士、はたまたカップルの人などが勢揃い。プラネタリウムへの改札は、そんな人だかりが沢山で真っ黒に染まっていた。


 「プラネタリウムね、初めてなんだ」友人がいった。


 「そうなの?凄い綺麗にね、星がたっくさんお空に浮かぶんだよ」小さい頃の僕は、あえてそれを天井とは言わなかった。


 10時になった。黒い人だかりが一斉にプラネタリウムの扉の向こうに突き進んでいく。僕らが受付を終了してちょっとした後にチケットが完売したらしい。だから僕らがプラネタリウムの扉をくぐり、暗い中で見つけた席は、端っこの端っこであった。僕らはソコにすわると、友人は「でっかいね」と呟いた。まだ星を映していないスクリーンではあったが、その遠い天井は『ねぶた』が丸々すっぽり収まりそうな位遠かった。だから僕も「うん、そうだね」と呟いた。


 そして暫くして、アナウンスが入る。


 「みなさま、おまたせいたしました。只今より、プラネタリウム上映会を開始いたします。前半30分は、今月、5月の星々を紹介致しまして、後半30分は番組………」


 辺り一面に星が輝く。その輝きの中で、女性アナウンサーがポインターで「南の方を向いて、上を向いてみてください。この7個の星、こうやってつなげますと、何かスプーンの様に見えませんか?これを北斗七星と言います」そんな説明を聞いて友人は嬉しそうにしていた。それを見て僕も不意に嬉しくなった。


 「今夜、多分この町中ではこんなにの多くの星が見れないでしょう。ですが1等星、2等星位までの星なら見えます。そこで豆知識として抑えてもらいたいのは、一番星とは実は空に一番最初に現れた星ではなくて、夜に自分が初めて見つけた星のことを言うんです。だから人それぞれ、一番星は違うってことです」アナウンサーがそう言った。


 すると彼女・・は静かにこう呟いた。


 「じゃあひゅうくんが、私の一番星なんだね」そう言った。


 その時の彼女の言葉の意図が分かったのはつい最近のことだ。その時の、あの頃の彼女の言葉は、確かなものであった。だからこそ彼女は、今になって18になった私に別れを告げたんだろう。


 僕は燃え尽きた一番星だ。彼女は二番目の星を見つけに行ったのだろう。だけどこれから、今度は永遠に輝く星を目指すべく、僕は大人になっていく。そして彼女を「一番星」と思えなかった僕にとっての「一番星」を探す旅の始まりでもあった。


 18歳の僕に静かに夜が訪れる。そして、西の空に一番星が現れた。


 「あ、一番星だ」


 振られた後なのにやけに気分を上げて、僕は家に帰っていった。


 《この作品は小説家になろうさまに上げたものを移植しました》



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一番星 スミンズ @sakou

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