第4話 ドラゴン狩りは勇者の剣で
「幻獣が『魔術師』によって放たれただあ?」
俺の説明を聞き、東さんは怪訝そうな顔をする。
「ああ、あの奇妙な少年が言ってたんだ」
「どうせ子供の作り話じゃないの?」
セツナは興味なさそうに言う。
「でも俺にはどうもそうとは思えなくて」
俺たちがそんな話をしていると、タイミング良くスマホに猟幽会本部からメッセージが届く。
『
俺たちは顔を見合わせた。
改めて言うまでもないかも知れないが、ドラゴンとは、恐竜のような姿をした幻獣類最強と言われる生物だ。
以前秋田新幹線と衝突し、盛岡-大曲間が運休になるという事故があったことでも有名だ。
だが、基本的には山奥に住んでおり、あまり人里には出てこないはずだが。
それがなぜ、登山客も多い超高井山に?
魔術師と何か関係が有るのだろうか?
「超高井山か......確か、三十年くらい前、幻獣が初めて現れたのもあの辺じゃなかったっけか」
東さんが神妙な顔をする。
「……黒の魔術師と、何か関係が?」
俺たちは、とりあえず超高井山へと向かうことにした。
*
超高井山は標高2236mの活火山で、紅葉や新緑など季節の風景が楽しめる人気ハイキングコースもある。本当にここにドラゴンが出るのだろうか?
中腹あたりまで車で登る。
「さてと、着いたぜ」
東さんの言葉を合図に車を降りる。
中腹には神社と駐車場、古びた道の駅があり、神社の裏手あたりから頂上へ続く細い道が伸びている。
中腹より先は徒歩で登る他手段はない。
「ドラゴンの気配は......無いですね」
辺りを見回すも、澄んだ空気と虫の鳴き声が広がるばかりだ。
「とりあえず頂上目指す?」
「道の駅でソフト食べてから行かない? 名物『きりたんぽソフト』」
そんな話をしていると、空を切り裂いて女性の悲鳴が聞こえた。道の駅の方からだ。
「――ドラゴンか!?」
「行ってみよう!」
声のした方へ走っていくと、道の駅の上空に何やら黒い影が旋回しているのが見えた。
鱗に覆われた爬虫類のような顔、大きな翼に鋭い牙と爪。間違いない、ドラゴンだ。背中には黒いマントを着た少年。それからよく見ると、ドラゴンの爪にも小さい子供が引っかかっている。
「子供が!」
間髪入れず、セツナが銃を構える。
セツナの放った銃弾はドラゴンの足に命中し、子供が空から落ちてくる。俺は猛ダッシュで落下地点に辿り着くと、無事泣きじゃくる子供をキャッチした。
「奥の方へ逃げていくぞ!」
東さんが小さくなっていくドラゴンを指さす。銃弾はドラゴンにさしてダメージは与えられていないようだ。
「追いかけよう!」
視力の良いセツナを先頭に全員で登山道に入る。
「どういうこと? 本当にアイツがドラゴンを操ってるの?」
草木の生い茂る登山道を急いで登る。
程なくして、道が開けた。
視界を遮る木がなく、一面に芝生の生えた丘のような場所に、黒づくめの少年とドラゴンが立っている。
「やあ、よく来たね」
少年が笑う。
「あなたが黒の魔術師?」
理恵さんが恐る恐る尋ねると、少年はあっさりと答えた。
「ああ」
「なんで子供を攫おうとした」
今度は東さんが尋ねる。黒の魔術師はニヤリと笑った。
「決まってるじゃん、あんた達をおびき寄せるためだよ」
言うなり、少年は右手をあげる。それを合図に、ドラゴンはこちらへ突進してきた。
まさか、本当にあの少年がドラゴンを操っているのか!?
「うわっ!」
ドラゴンに突進され、木に背中を打ち付ける。一瞬意識が飛びそうになった所へ、ドラゴンの牙が迫る。
――食われるっ!
と、ドラゴンの動きが止まった。俺はその隙に何とかドラゴンの背後へと逃げた。
理恵さんが笛を吹きドラゴンの動きを止めたのだ。
続いてセツナが銃弾を撃ち込む。が、厚い鱗に覆われ弾丸が弾かれる。
俺と多恵子さんは武器ドラゴンの左右の脚へ攻撃する――が、これもほとんど手応えがない。
「ギャアッ!」
不意に、多恵子さんが飛んできたドラゴンの尾に当たり前地面に倒れ込む。
「多恵子さん......!?」
倒れた多恵子さんから中々返事が無かったのでゾッとしていたが、少し間をおいて返事があった。
「大丈夫だよ、ちょっとバランス崩しただけさ」
とは言うものの、明らかに顔が真っ青だし、フラフラしている。まずい。
「ニシ、ちょっと」
多恵子さんに肩を貸し後ろで休ませていると、東さんに呼ばれた。
「もしドラゴンが爬虫類と同じように変温動物なら、急な暑さや寒さに弱いはずだ」
「なるほど! じゃあ、氷はないし......火ですね!」
俺は東さんの持っていたスポーツ新聞にライターで火をつけると、ワンカップの瓶に入れ思い切りドラゴンに投げつけた。
即席の火炎瓶は真っ直ぐにドラゴンの方へと飛んでいく。
「よし!」
しかし、ドラゴンは口を大きく開けると、目の前に飛んできた火炎瓶をパクリ、と飲み込んでしまった。
「ありゃ?」
「全然効いてないぞ!」
それどころか、火を得たドラゴンは先ほどよりも生き生きしているように見えるのだが……
――ブン!
風圧と共にドラゴンの尻尾が飛んでくる。
「きゃあ!」
地面に倒れたのは理恵さんだった。カランコロンと音を立てて転がる笛。
「理恵さん!」
「私は大丈夫です。それよりドラゴンが......!」
見ると、ドラゴンが空高く舞い上がっている。笛による呪縛が解けたのだ。
「おい、マズイぞ」
東さんが空を見上げ青い顔になる。
「みんな、ここから逃げろ!」
「え?」
ドラゴンが大きく息を吸い込んだ。背筋が寒くなる。あ、これヤバいやつだ。
「西野さん!」
セツナの声が背後からした。
背中に汗が流れる。
逃げようとしたが、足が動かない。
どうしたんだ、動けよ、足!
ドラゴンは、その場から動けず地面にうずくまる俺と理恵さんに狙いをつけた。
もうダメか? 俺も、猟幽会のメンバーも。
そして――辺り一面、火の海に包まれた。
思わず目をつぶり死を覚悟していると、理恵さんの声がした。
「......西野さん、剣が!!」
見ると、剣の形がまた変化している。剣の柄がより大きく、翼のように左右に広がっている。
刃の部分も伸び、金色の装飾がつき、そこから青白い炎が吹き出している。
吹き出した青い炎はドラゴンの吐き出す赤い炎を弾き、力強く押し戻す。
「これは......」
「また剣が変化したんだわ。もしかしてこれなら!」
俺は呆気に取られたまま光る剣を握り締めた。
「いけるべ、ニシ!」
「頑張れっ!」
皆が応援してくれる。
「ああ。幽鬼物質を大量に吸い込んで、「思い」によって進化する剣になったんだ。なるほどね」
黒の魔術師は興味深そうな顔をする。
「竹も生き物だからね。植物というのは特に幽鬼物質の影響を受けやすいからそのせいかな。どうでもいいけど」
魔術師の声色が変わる。
「さあ、茶番は終わりだ。さあドラゴン、トドメをさすんだ!」
ドラゴンが、鋭い爪と牙を光らせこちらへ急滑空で襲ってくる。
剣を構えると、再び刃から青白い炎が吹き出す。
「でやああああ!!」
ドラゴンがこちらへ突っ込んでくるのと同時に剣を思い切り振り下ろす。
振り下ろした剣は、厚いうろこを突き破り、ドラゴンの肩口に刺さる。
手にのしかかる肉の重み。俺はさらに腕に力を込めた。
――いける!
閃光とともに、加速する刃。土煙が舞う。
「おらアあああああああッ!!」
こんな所で死ぬわけにはいかない。死なせる訳にはいかない!
俺はようやく思い出した。なぜ猟幽会に入ろうと思ったのか。俺は守りたかった。この村を、仲間を。自分がやらなきゃ誰がやるんだ。誰が救うんだ?
ありったけの力を、思いを剣に込める。
その瞬間、辺りは一面、真っ白な眩しい光に包まれた。
*
「西野さん、西野さん! 大丈夫ですか!?」
理恵さんの声で目を覚ます。どうやら、少しの間意識を失っていたようだ。
「ドラゴンは......」
体を起こすと、目の前には黒焦げになったドラゴンがいる。香ばしい香りが鼻腔をくすぐる。
「これを、俺がやったのか......」
「んだよ、んだよ! よぐやったなぁ!」
俺の頭をぐしゃぐしゃと撫でる多恵子さん。
そんなことを話していると、黒の魔術師が俺の方へと近づいてきた。
「おめでとう。まさか倒すとは思わなかったよ」
日が、傾いてきた。
風が強くなり、奴の黒いマントをはためかせる。意味深に笑う黒の魔術師。
「あとは......アイツだけか」
俺は少年に向かって剣を構えた。アイツは一体何者なんだ?
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます