第四幕:戦術指導技師《タクティクスコンサルタント》(二)
現実とゲームの違いはもちろんたくさんある。
その中でもダンジョンという閉鎖空間で、役割分担されたパーティー戦をやっていると、守和斗は「ゲームって楽だな」と感じるところが多々ある。
まずはやはり回復だ。
また、死んだら蘇生魔法はないし、教会で蘇ったりもしない。だからゲームでたまにある、死亡と蘇生をくりかえして敵を倒すような「ゾンビアタック」という手法はありえない。
そしてもうひとつ、大きく違うのは「ヘイト管理」だ。いわゆる敵が味方の誰を狙うのか、固定化する戦術である。ゲームだとパーティーメンバーの盾役と呼ばれるものに敵の攻撃を集め、攻撃係がその間に攻撃する。
その為に盾役には、敵の
しかし、現実ではそんなに上手くいかない。敵の怒りを買う能力などないし、ヘイト管理などできないのだ。
一方で、現実の方が有利なこともある。
たとえば、地面を泥にして足を取ったり、強風の壁を作りその場から動かないようにしたりする、敵の動きを封じる
ゲームの場合、その手の能力は繰りかえし使っていると、敵に抵抗力ができてだんだんと効かなくなっていく事が多い。敵の位置を離れたところで固定し、遠距離攻撃で一方的に倒すような、いわゆる「ハメ」ができないようにするためだ。
しかし、現実にはハメ対策などない。
逆に言えば、完全ではないにしろ、
すなわち、あらかじめ敵の種類がわかり、敵の動きがわかっていれば、先手で相性のいい足止めの
理由は簡単で、使いどころが難しいのだ。
まず、足止め系の
また足止めのエリアも考えないと、メンバーによってはこちらも攻撃できなくなってしまう。
それだけではない。ほとんど閉鎖空間と言える
そもそも敵が
足止めの使い分けは、当たり前だが状況判断しながらやらなくてはならない。先読みしたり、味方の動きをコントロールできる指揮役が必要なのだ。
それでもこれを使わない手はない。だから守和斗は、いく先々でこの手法を薦めたし、またそれができるような陣形をとるようにしてきた。
もちろん、ウィローのパーティーでもそうすることにした。
ウィローたちには、第9層に入ってから最初に遭遇した
あまりの酷さに我慢できず、守和斗は2戦目から口出しをすることにした。このままやらせては、犠牲者が出てもおかしくない。
もともとウィローのパーティーの構成はバランスがよく、遠近攻撃職が揃っており、さらに回復もいる。それにわりとパーティーメンバーの戦力もある方だった。なにしろ、こんなでたらめな戦い方でも未だになんとか生き残っているのだ。力がないわけではない。
だから、2戦目で
確かに
「――君、何者?」
ただ手を貸したことが、タウという
彼女はウィローと話しているところに寄ってきて、怪訝な視線を不躾なまでにぶつけてくる。惚けることを許さないと言わんばかりに、鋭く尖って守和斗を貫いている。
「ボク、気がついている。君がやったこと」
「私はね、貴方たち冒険者の手助けをする……ただのしがない
「ただの
【
それもそのはずで、気の流し方がまちがっていたのだ。彼は盾から気を放とうとしていたが、
ウィローが盾役として
「君、
その言葉に、守和斗はクスッと笑いをこぼす。同時に、周りを見る。ウィローとタウ以外の3人は少し離れたところで、まだ興奮がやまず楽しそうに互いの活躍を褒め称えていた。
これならば聞かれないだろうと、守和斗は開口する。
「ああ。そういえばあなた、ずっと私の隙を狙っていましたよね」
「……気がついていたのか」
「そりゃあ、まあ。あれだけ気を向けられれば……」
「そこまで気を扱える
「ま、まあ……待てよ、タウ」
そこに割りこんだのは、ウィローだった。
彼は顔をひきつらせながらも、守和斗を庇うように立つ。
「確かにこいつは正体不明だし、妙に強いんだ。なにしろ、
「――! なるほど……最低でも
「テラさんと話したのか。でもさ、あのテラさんが率先して雇おうとするんだから、悪い奴だと判断しなかったということだろう。なんで
「…………」
「タウが不安に思うのもわかるけどさ、ゴメン……頼むよ。もう少し、オレはコイツに力を借りたいんだ。今の勝利で……なんか変われる気がしたんだ!」
「ウィくん……」
タウが続く言葉を呑みこむように黙りこむ。
守和斗はその様子を黙って見守っていた。決めるのは彼らだ。そして自分の役目は、彼らが決めたことを尊重して手助けすることだけ。
「……別にボク、反対はしない」
「タウ……」
「ただボク、知りたかっただけ」
「こいつの正体?」
「違う」
「え? じゃあ、なに?」
「強さ。……ボクは彼の強さが知りたい」
守和斗に向けられたタウの眼差し。そこには、まるで餓えを感じさせるほどの切望が含まれていた。
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