第二章:救世主は、コンサルタント?
第一幕:元恋人(一)
各層には、魔力障壁というものが張られている。それは階層全体を覆っていて、人が通るとき以外、出入り口経由での魔力や空気の流入がされないようになっていた。
もちろん、中に魔力や空気が全くないわけではない。
しかし、その分量は決して大量ではない。大人数が内部で
そのために最高7人までのパーティーを編成し、突入するパーティー数をコントロールしながら、まずは各層の
そして次の9層をクリアするために、ウィローたちも出発時間より早く
今いるのは、
今日の出発順番は、午後コースの3パーティー目。さほど時間はない。早急に
「――というわけで、最初の数戦は細かい判断は自由に戦ってください。それにより私の方で方針を考えます。ただし、隊列はこのような感じで……」
だが、その日の打ち合わせは、
音頭をとっているのが、パーティーリーダーであるウィローではなく、パーティーメンバーでは一番若く、一番の新人である
若いと言ってもウィローの4~5才下だろう。しかし、冒険者にとってその年月の差はかなり大きいはずだ。ましてや、
「基本的に使用してよい魔法はレベル9までとしましょう。魔力温存のためにも、攻撃は
しかし、その指示は非常に細かい。経験があるはずのリーダーであるウィローがしたことのない細かい指示をだしてくる。
ウィローがだしていた指示などたかが知れている。どうせ6~7人しかいないのだ。前衛と後衛を決めて、それぞれ警戒しながらリーダーの指示で進む程度で終わりである。あとは臨機応変だ。
そもそもパーティーメンバーは、よほど
ウィローのパーティーも、固定メンバーはウィローとタウ、トゥの3人だけだ。2年前はもっといたのだが、今は補充メンバーと臨時契約してやりくりしている。
もちろんメンバーは契約により、リーダーの指示に従うことになっている。だが、それは完全に書面上の話だ。
ウィローにリーダーシップの資質や、リーダーとしての威厳などがあふれていれば別だろうが、そうでもない限り自由気ままが多い冒険者が、そんなに細かい指示を聞いてくれるわけがない。
しかも、最近は冒険者保険も充実している。保険に加入していれば、パーティーと相性が合わず辞めたとしても、次のパーティーが決まるまでの一定期間、生活保護を受けることができるようになった。
確かに冒険者生活は昔より安定度が増したが、逆に少しでも気に入らないとパーティーを抜けてしまうという事案も多くなっている。「最近の冒険者は根性がない」などとも言われるが、若い冒険者にしてみればそれが当たり前だった。
それだけに各パーティーリーダーたちも、あまり強いことが言えない場合が多い。
「カールさんの弓の腕前は信じていますので、ここではあえて余裕を見せて前衛2人を助けてあげましょう。キィさんの
ところが、臨時の補充メンバーの2人さえも守和斗の話を受けいれていた。彼は言葉巧みに2人をその気にさせている。自分は裏方に専念し、とにかく相手を持ちあげる。若くしてこの話術はいったいどこで学んできたのだろうかと驚くばかりだ。
「ボク、どうする?」
そしてもうひとつ、驚くべき事にタウが積極的に守和斗の指示を聞いていたのだ。昨日の態度とあまりに違う。この豹変ぶりはなんなんだろうと、ウィローは彼女の顔をマジマジと見てしまう。
だいたい彼女は普段、積極的に打ち合わせで口を開くことなどなかった。たぶん、彼女はパーティーメンバーの力量を信用していなかったのだろう。なにしろ、彼女がメンバーを頼ったことはない。いつもメンバーを助ける立場で、むしろその力量をわざとおさえて仲間とバランスを取っているところさえある。
そんな彼女が、積極的に作戦に参加しようとしている姿をウィローは初めて見たのだ。
(オレがリーダーとして力不足だった……ということか)
ウィローは後悔に苛まされる。
探索に行くには、自分が強くなればいいと思っていた。強くなればパーティーメンバーもついてきてくれると思っていた。弱い自分に、レベルが上のタウに指示を出せるわけないと思っていた。
弱い自分では、ダメなのだと。
しかし、強くもなく、言うなればレベル0の
それはウィローにとり、自分の生き方を否定されているかのようだった。
「……ということで、ウィローさん。よろしいですか?」
「……えっ? あ、ああ、うん……」
突然、話を守和斗に振られて、ウィローは慌てて返事をする。
しかし、もちろん話を途中から聞いていなかった。パーティーメンバーで卓を囲んで大事な打ち合わせだというのに、リーダーである自分が上の空などとんでもない話だ。
思わず彼は、顔を下に向けて目を伏せてしまう。
「……ウィローさん。実際の戦略
守和斗が、その彼に静かに話しかける。それはまるで、親が子を諭すように。
「今回の私は、あくまで
「――うっ、うるさい! そんなこと、お前に言われなくてもわかっている!」
守和斗の妙に落ち着いた口調が癇に障った。年下で、レベル下で、たかが
「このパーティーが強くなるかどうかは、あなたにかかっています」
「…………」
ふと先日、袂をわかつことになった2人に言われた言葉がよみがえる。
――君たちは下手すぎる。
――だいたいテメーが悪いんだ。よく考えるんだな……
それは確実にリーダーとしての資質を問われる言葉。
だが、今はリーダーとしての自分などどうでもよかった。自分が強く、偉く、認められれば良かった。
彼女にさえ認められれば良かったのだ。
「――!!」
ふとウィローの視界に入ったのは、まさにその彼女の姿。
「すまん! ちょっと頭を冷やしてくる。すぐ戻るから……」
「あ、ウィくん……」
トゥの止める声も聞かず、ウィローはその場をそそくさと立ち去ってしまった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます