怖い・不思議・嫌な話

ボンゴレ☆ビガンゴ

《壱》 赤い服の女の子。

 これは私が大学生の時の話です。


 大学生になり念願のバイクを買った私はアルバイトしてはパーツを買い、パーツを買っては金欠になり、金欠になってはアルバイトをする、というバカ無間地獄を繰り返していました。


 そんな、丸出しバカ一番野郎の私が働いていたのはチェーンの飲食店で、万年人材不足の店でしたので、朝から晩まで働いたりすることもざらでした。


 よくいる大学生と同じように、授業にはあまり行かず、アルバイトばかりしていたのです。

 本当に日本の学生はロクでもないですね。



 その日も、深夜までアルバイトをしていた私は、お気に入りのバイクで帰路を急いでおりました。

 薄暗い道。都内とはいえ夜の住宅地は暗く気味の悪い道はあります。


 ……そうそう、まず前提のお話を忘れていましが、実家にて同居していた今は亡き祖母は【見える人】でした。

 祖母は大正生まれで、東北の方の島生まれで、戦後に東京に嫁いできた人で、昔からよく【見えた】ようで、よくそういった霊的な話を聞かされました。


 ですが、本当に祖母に霊感というものがあったのかどうかは正直にいうと私にもわかりません。というより、私の周りにいる霊感があると言い張る人に信頼できる人がいないので、安易に信用できない部分があるのです。

 しかし、身内補正なのか(きっとそうなのでしょうが)祖母の言葉をあまり疑うことはありませんでした。


 祖母は毎朝、仏壇と神棚の前でお経と祝詞をあげていました。一日も欠かす事なく毎日です。

 信心深いんだなぁ、と思いつつも、ある時お経を唱え終えた祖母に聞きました。


「ばあちゃんは神様とか天国とか輪廻転生とかそういうの信じてるの?」


 すると祖母は言いました。


「別に信じてないよ」


 淡白に答えられたので私は驚きました。

 信じてないのに毎朝、三・四十分はかけて仏壇なり神棚の前にいるんですから。


「ただね、お経唱えると死んだおじいちゃんとかお兄さん(祖母のお兄さん戦争で死んだ)とかが出てくるから、仕方なく唱えてるんだよ。その日によっておじいちゃんの機嫌も違うから、毎日しないと怒られるの」


「ふーん」なんて言いつつ私は祖母の宗教自体に対する信仰の薄さを知り、内心驚きました。


 ……ちょっと、話が逸れてしまったので戻します。


 アルバイトを終えた深夜一時。

 お気に入りのバイクで帰った私は、自宅の駐車場にバイクを停めました。


 駐車場はちょうど祖母の部屋の脇にあり、バイクの音やヘッドライトの明かりのせいで、祖母は私が帰ってくることはすぐに気づくそうです。


 その日も、玄関からすぐの所にある祖母の部屋の扉を少し開け「ただいま」と言いました。

 すると、いつもは寝ている祖母が珍しく起きていたのです。

「あれ、珍しいね、起きてるの?」というようなことを私は言いました。


 私を見た祖母は布団から起き、こちらに寄ってきて声を潜めて言います。


「もうお母さん(私の母、祖母から見れば嫁)も寝てるから遠慮しなくていいよ」


 と。


「……なにが?」


 私はなんのことだかわからず聞き返します。

 祖母は何故かちょっと嬉しそうな顔をしています。


「もう電車も終わってるでしょう。気にしないでいいから入って貰いなさい」


 意味がわかりません。

 ぽかんとした顔の私に祖母は続けます。


「後ろに乗ってた赤い服の女の子だよ。もう夜も遅いんだから外で待たせとくのも悪いわよ」


 ゾッと全身が粟立つのを感じました。

 もちろん、私は一人で帰ってきました。誰も後ろに乗せてなどいません。

 

 怖くなり慌てて玄関に行き鍵を閉めたか確認しました。

 ちゃんと鍵はかかっていました。

 ホッと胸を撫で下ろした瞬間、音もなくドアノブがゆっくり回りました。


 立ちすくみ動けない私。

 鍵がかかっているから扉が開く事はありません。

 カチャリ、と小さくドアを引こうとして、鍵に阻まれる音が一度だけしました。


「……ああ、連れてきちゃったんだね」


 いつの間にか背後に立っていた祖母が小さく言いました。その口調は穏やかで全く恐怖心を煽るものではありませんでした。


「今日はもう寝なさい。大丈夫だから」


 私の肩をポンっと叩き、背中の曲がった祖母は微笑みました。


「せっかくあんたにも彼女が出来たのかと思ったのに」


 肩をすくめてみせる祖母に、私は苦笑いしか出来ませんでした。



 私は普段ならエロサイトを巡回するのですが、さすがにこの日は何も出来ず布団に潜り込みました。


 次の日の朝、祖母はいつも通りお経と祝詞をたっぷり時間をかけて唱えていましたが、昨晩の出来事については何も言いませんでした。


 私も何も聞くことができませんでした。


 結局、あれがなんだったのか、何も聞くことができず、祖母はすでに亡くなり、今となってはわかりません。


 怖い、と言うより不思議な話でした。



おわり。





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