6篇「デート・オア・アライヴ 中編」
ダッシュ!
梯子を途中迄降り、そこからジャンプして着地。
即行、ダッシュ、猛ダッシュ。
サイフを
「オラオラオラオラーッ!」
大声を上げて、猛追。
俺はそこそこ運動できる。
特に短距離は、そこそこ速い。
中学ん時はバスケ部だったしな!
ナンバ走り取り入れた練習法でパワーアップよ。
ま、弱小校だったけど。
それに今は始めたばかりとは云え、ダン爺の下、無駄に基礎練ばっかしてるから、負ける気がしねー。
女子供に負けねぇ~!
「逃げんな、コラ~ッ!」
乗ってきたぜ、スピード!
加速してるぜ~、俺。
もっ先状態、イニD状態、多分、BGMは、m.o.v.e。
なお、ALTIMAでも可。
攻めるぜ~!
俺の前を走るヤツはいねぇー!
俺より速いヤツはいねぇー!
――よっしゃ!
追いついてきた。
この小娘、なかなか足速いじゃねーか。
だが、俺の敵じゃねー。
ストライドでは遙かに俺に
手が届きそうな位置になったら、引っ捕まえて叩き
「キャーッ!追い剥ぎ、追い剥ぎよーっ!誰か助けてー」
――!?
あのガキィ~、きったねぇ~!
常套手段とは云え、なかなかエゲツねぇー真似してくれるな。
こーゆーヤツがいるから、痴漢冤罪がなくなんねーんだよ!
だが、俺は負けね~!
それでもボクはやってない、って感じだぜ!
こう云う、小バカにされた感じが、一番嫌いなんだよ、オレはッ。
メチャゆるせんよなぁぁぁ~!
街角を曲がる。
更に、曲がる。
狭い処を抜ける。
障害物を
――くぅ~、ちょこまかとォ~!
体が小さい方が有利な細道と曲がり角を
土地勘がないから逃げる少女を見据えて追うしかない。
道を知らないから予測出来ないってのが厄介。
なかなかどうして追いつけない。
だが、伊達に朝から晩まで走らされている訳じゃない。
スタミナ的に全然余裕。
後は、追い詰めるそのチャンスを待って追うまで。
――逃がさねーぞ、絶対に!?」
「キャーーーッッッ!!」
急な悲鳴――
何度目の角を曲がっての事かは覚えていない。
裏道の日陰の暗がりの角を曲がった辺りで、その小娘の声、悲鳴が聞こえた。
――コケたか?
ちょこまかしてっから、そうなんだよ。
にやり、としながら角を曲がってみると…
「えっ!?」
その蠢く人、いや、人ではない。
足が逆関節。
いや、逆関節なのではなく、獣のソレ。
山羊や羊を思わせるその足、いや、脚には巨大な
胴体や腕は、人間を思わせる。
ただ、
手の爪は長く
何より恐ろしいのが、その頭。
完全に山羊の頭。
悪魔の様相を思わせるような薄汚れたボロボロの黒山羊。
蛇のような縦長の瞳孔を
舌は長く、二股に裂けた蛇舌が、山羊からは
吐き出す息は、腐卵臭を放ち、吐き気を
――な、なにコレ…
ちょっと、待って。
息を整える。
冷静になれ。
なんなの、この
地面に転がってるのって、まさか、これ、人間、だよね。
死んでるの?
ウソだろ!
殺人現場!?
いや、殺人現場なのは確かなんだが、なんなんだよ、この生き物は!
パニック――
ワケが分からない。
ファムとの楽しい馬デート。
王都を散策、ファムの用事が済む迄ちょっと待つ間、
しかも、見るに堪えない気色悪い生き物。
どうなってんだよ!
ここ、王都だろ!
なんで化物がいんだよ。
しかも、昼だぞ昼。
聞いてないぞ、こんなの!
なんだよ、このイベント!
クソイベントな上、クソシナリオじゃねーか。
おい、デイドリ運営、どうなってんだよ!
俺は、カワイイ子に囲まれて過ごしたいだけなんだよ。
脚本なんか、興味ねぇ~んだよ!
脚本よりもキャラデザ!
かわいいコを出せよ、バカヤロー!
ハーレム希望。
やり直せ!
今すぐ、やり直せ、このクソイベ!
詫び石
「こ…
「えっ?」
腰を抜かしたようにへたり込む
なんだよ、渾沌の化物って?
――あっ!
そう云や、ファムが持ってきた書物の中で、そんな単語を見た記憶が。
絶対悪、生命の敵、恐怖の権化、そんな感じの説明をされたような気が。
どうする、俺?
いや、ここはヤルしかねーだろ。
ムカつくガキとは云え、腰抜かした少女を助けないなんてワケにはイカンよな~、俺。
デイドリは俺が作り出した夢世界。
運営、ま、クソ運営なんだが、その運営は俺だ!
ここはいっちょ、ヤルしかねーよな。
ファムから渡された護身用の剣を抜く。
「――
どう?
このシチュエーションにこの
カッコよくね?
うん、
パニックからは
クレバーだ。
イケるぜ、俺。
いや、イケてるぜ、俺!
「おらっ、イクぞ、この化物がァーッ!」
ガリッ――
なに、この感覚?
振り抜けない。
こう、イメージした剣を振るう軌道じゃないぞ?
――アッ!
山羊頭の化物が、その黄色く濁る
「くっそこの野郎ッ!どーなってんだ!」
力を込めて押し切るように踏み込む。
ギリッギリリッ――
ウソだろ、おい!?
ビクともしない。
全然、動かない。
どーなってんだ?
この剣、
いや、そんな筈は…
――ヒュンッ!
化物が爪を
「アッ!?」
――ドゴッ!
うおっ!
吹き飛ばされる。
2メートル、いや、3メートル強、吹っ飛ばされる。
路地の壁に激突。
ぐぇっ――
変な声出た。
左肩から背中全体を強く打ち付け、激痛が電撃のように走り抜ける。
「!?い、いってぇぇぇ~~~!!!」
剣が
剣って、こんな形になっちまうもんなのかよ!
初めて、知ったわ。
――で、だ。
骨折や脱臼には至っていない。
ジャージが破れ、擦過傷で血が
大事には至っていない。
助かった。
にしても、痛ぇ~!
超絶、いてぇー。
俺はガキの時から用心深く、注意深かったから、怪我を殆どした事がない。
骨折もないし、脱臼もないし、勿論、入院した事もない。
そもそも、すっ転んで膝を擦り剥き、
釣りをしてて針が指や
そんな、ミスター・ノーダメージこと、この俺に負傷を与える、だと!?
くっそ、いてぇー!
――つーかさぁ…
初めてのエンカウントにしちゃ、敵、強過ぎねーか?
剣持っててコレって。
もし、俺が
クソイベな上にゲームバランスがグダグダとか、デバッガーもテスターも
そんな事より――
「おい、ガキ、逃げろ!コイツは俺が食い止めるから、サッサと逃げろ!」
云ってはみたものの、腰を抜かしている少女は立てず。
こりゃ、参った。
ガキを抱いて逃げ切れる自信はねーし。
――どーする、俺?
「キャャャーーーッッッ!!!」
――え!?
なに?
一瞬。
たった一瞬。
ほんの少し、ごく
見るも
四方八方に飛び散り、裏路地の汚れと化す。
特急列車と正面衝突したかのように、少女の姿は影も形もない。
――ちょっ!!!!!
なんだよ、コレ!?
リアルタイムバトルってのは分かるけど、ちょっと待てよ!
ハード、いや、ベリーハード…
いやいや、エクストラモード過ぎんだろっつーの。
化物が近付いてくる。
その酷くねじ曲がった爪を高々と掲げ、得物を、俺を狙っている。
「ログアウト!強制ログアウトだッ!!!」
――ブゥン!
襲い掛かってくる、化物の爪が。
おいおいおい!
ログアウト、間に合わねーのかよ!
これ、どーなっちまうんだよ?
デイドリで死んでも、ナイトメア…現実の方は大丈夫なんか!?
冗談じゃねーぞ!
夢ん中で死んで、ベッドの上で衰弱死、とか笑えねーよ!
くっそ――
――ログアウト!
――ログアウト!
――ログアウト!
うおーっ!!
爪が迫ってくる!
目の前までっ!!!
――ログアウト!
――ログアウトッ!
――ログアウトッ!!
――ログアウトーッ!!!
――ログアウト、っつてんだろーがァ~!!!!
――ママーッッッ!!!!!
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