エクスカリバー・チェーンソー
武論斗
第一章:チェーンソーの貴公子
プロローグ「チェーンソーは突然に」
――
◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇
――時は
――ついでに、
来たぞ、来た来た。
来た来た来たぁぁぁーーーッ!
いよいよ、来た。
って思ってても、やっぱ来ちゃうんだよね。
ですよね~。
孤独な高校生が、
ついに、
とうとう、
今夜、
孤高の王になる。
やったぜ。
待ちに待ってた、この日を、この野郎っ!
ロクにやったこともない筋トレやら体力作りやらを続け、ちょっと体もできてきた感じ。
おほっ!
結構、いいんじゃね、俺?
そこそこ、マッスル。
テンション、マックス。
人生、クライマックス!
ザワつくね、心。
いつもの芋ジャージに着替える。
――さて、
後は、寝るだけ。
いや、最終確認――
ポリタンク2つ。
1つは、2ストローク用の混合燃料。
もう1つには、チェーンオイル。
ポリタン2つの取っ手部にスズランテープを通して
洗浄水と雑巾も用意し、バッグの中に。
バッグは斜に掛け、腹側に。
向こう用の腕時計も着けとかないと、な。
よし、間違いない。
再度、YouTubeで動画を視聴。
ふむふむ、完璧。
念の為、スマホも握る。
よっしゃ、寝る。
寝るぞ!
不自然に荷物を体中に括り付け、ベッドに横たわる。
おっと、目覚まし。
これは、切っておく。
起こされちゃ、たまらん。
――それじゃ~…
寝るぜ~、
――フワァ~。
いい感じで眠くなってきた。
「来やがれ、俺の“夢”!」
ふむ…
――おやすみなさい…
※ ※ ※ ※ ※
王都に程近い、王者の泉。
その泉の真ん中に
岩の上辺は
その伝説の剣を抜いた者は、王たる資格を得て、
今年もまた、伝説の剣を引き抜き、王たらんと欲す者達にその機会を与える祭『
国中が注目する大イベント。
国中の力自慢が集い、その腕力を誇り、狙うは王への道。
為すべき事は只一つ、剣を岩からブッこ抜く、それだけ。
その中に、
並み居る力自慢達は、我先にと泉の台座に向かう。
王者の泉の聖職者はこれを制し、
整列し、次々と猛者がこれに挑む。
伝説の剣は、実に奇っ怪な形をしている。
橙色をした巨大な柄は、それそのものが柄頭を思わせ、バックパック程の大きさで、宝箱を思わせるような形状。
金属の幅広な刀身には、鮫の歯を思わせる無数の小型の刃が鎖状に付いている。
このような剣、世界の何処にも存在しない。
知られざる名匠が作ったのか、神のもたらしたアーティファクトなのか、
泉の聖職者は、伝説の剣の逸話を語る。
大森林を切り開き、手付かずの大地を開墾、大いなるダリアの礎を築いた、と。
王者の泉は、その偉大なる伝説の王を称えて作られた、と。
そして、偉大な伝説の王は、泉の石の台座にハスクヴァーナを突き立て、こう予言した。
――雷鳴の如く轟音を響かせ剣を引き抜きし者、この世の絶対王者とならん。
石の台座には、魔術
そう、純粋に
誰も彼もが剣に挑む事は出来ない。
騎士以上の推薦人一人以上が必要。
剣を引き抜く事が出来た者は、王たる資格を得るのだから、それくらいの推薦人を用意出来なければ挑戦するに値しない、というのが泉の
柄には、グリップ状の部分がある為、ここを握って台座から引き抜こうとする猛者達。
次々と挑み、そして、力尽きては脱落を繰り返す。
これが毎年、祭で見る光景、との事。
剣に挑む者も、異国の少年を残し、最後となった。
見た事のない装束を
年相応の体付きではあるが、それ迄挑んできた猛者達の筋量と比較れば、それは華奢と云って差し支えない。
試す迄もなく、無理。
誰もがそう思う。
その少年は、黒髪に黒い瞳と云う極めて珍しい
それは明らかに、不吉、を意味する。
本来、そのような不吉な少年を栄光ある剣に挑ませる訳にはいかない。
ところが、彼の
彼の推薦人は、辺境伯ダイナマクシア。
本日は、公務の為、欠席。
代わりに、3名の代理人が付添として来ている。
代理人の一人は、“
西域の七賢人の一人にして
もう一人の代理人は、“
元剣聖にして傭兵団“
代理人最後の一人は、“
三大妖女の一人にしてダリアン魔術院理事長
「いよいよ、俺の出番だな!」
カイトは力強く台座に踏み入れる。
ポリタンク2つを抱えて。
「それは何かね?」――と聖職者。
「ああ、コレは祝福した聖油。剣に“命”を吹き込む為のものさ」
岩の台座に立ち、剣を
剣、というか、どっからどう見てもチェーンソー。
一片の曇りもない、
実にシンプルで純粋な、
紛う事なき、チェーンソー。
うむ。
こいつら、チェーンソー知らないんだよ、根本的に。
まあ、そう云うこっちゃ。
さて、と――
――よし、ここからだ。
慎重にいくぜ。
手順通り、
大丈夫。
YouTubeで何度も見た。
おかげで、関連動画は、チェーンソーの動画ばっかだ。
俺は、林業関係者じゃねーって~の!
チェーンソー本体の確認をする。
持ってきた洗浄水で霧吹きし、本体の汚れを
続いて、混合燃料とチェーンオイルをそれぞれ給油。
――トクトクトク…
よし、満タン。
「聞こえるぜッ、ハスクヴァーナの息吹がッ、鼓動がッ、その脈動がッ」
どう、この
なかなか、よくね?
ちと、芝居、クドイかな?
カイジとかデスノ見て研究したんだけどな~…
見守る観衆は、その奇異な行動に眉を
全く期待していなかった聖職者達も息を呑み、見守る。
チェーンブレーキを作動させ、スイッチをオン。
チョークを引き、プライマリーポンプを押す。
スターターグリップを引き、手応えを確認後、チョークを戻し、再度、スターターを引いてエンジンを掛け、チェーンブレーキ解除。
――ドルンッ、ドルッドルンッ、ペンペンペンペンペンペン…
軽快な2スト特有の乾いたアイドリング音。
芋ジャージの袖を
そして、緩やかにアクセルを引く。
――ドルッ、ドルルルンッ、ドルルルルルルルンッ!
70インチ、約180cmの刃渡り、ガイドバーの
――おおっ!
「さあ、いっくぜぇ~!」
アクセル全開でグリップを握り締め、引っこ抜く。
――ドルルルルルルッッッ!
激しく回転するソーチェーンが岩を砕く。
――ガリガリゴリガリリッ!
粉砕する岩と高速回転する刃が激しく
――バチッ、バチッ!
白煙が辺りを包み、エンジンの
――ドルン、ドルルッ、ドルルルルルッ!
――ガリッ、ゴリッ、ガリガリガリッ!
――バチッ、バチバチバチッ!
ずるずると刃が、チェーンソーのガイドバーが
――おおおっ!!
泉周辺の観衆が
「一気に行くぞッ!おらーーッッ!!!」
――ドルッ、ドルルンッ!
自由になったチェーンソーに、再度、アクセルを上げ、王者の雄叫びを上げる。
――ドルルルルルルルルルーッッッ!!!
「引き抜いたぞ、ハスクヴァーーナッ!」
――おおおおっ!!!
観衆の響めきは、歓声へと昇華し、拍手喝采。
「見たか、みんなッ!抜いたぞ、伝説の剣」
泉の聖職者達は、信じがたい出来事に驚愕、目を丸くし、声を失い、中には、腰を抜かす者、泣き出す者、失禁する者さえ現れる始末。
三人の推薦人達は、思い思いの表情を浮かべ
「よしっ!これで俺は王だッッッ!
俺の名は、カイト!みんな、覚えろよォーッ!!」
――うぉぉぉおおおお!
観衆の大合唱。
――カーイートッ!
――カーイートッ!
――カーイートッ!
カイト・コールが爆発してる。
高々とチェーンソーを掲げて、勝ち誇るカイト。
併し――
重い!
重過ぎる…
この超大型チェーンソー、12キロを優に超える重量。
いくら少し鍛えたとはいっても、これだけの重量を頭上に高々掲げ続けるのには限界が。
腕がぷるぷるしてきた。
うーん…――
――ツルンッ
「あっ!?」
汗で、汗で手が滑った。
巨大なチェーンソー本体がカイトの脳天に!
ゴツン!――
※ ※ ※ ※ ※
――ゴツン!
「ア゛ッ!?」
ベッドから転げ落ち、フローリングにしこたま頭をぶつける。
「痛ッ!!いってぇ~~~」
“夢”から覚めちまった……
握り締めていたスマホをベッドに投げ付ける。
只の八つ当たり。
――くそぅ…
目が覚めちまったよ。
一番いいところだったのに!
なにやってんだよ、俺は。
くそっ!
はしゃいじまったよ。
仕方ない。
もう一度、“夢”の続きを…
ベッドと毛布の間に滑り込み、目を
寝るぞ!
眠るぞ!
…
……
………
…………
……………
…………
………
……
…
「だァ~~~!!!!」
目が冴えちまって、全然、眠れん!
くそ~~~!
「許さんぞ、あのクッソ重いチェーンソー!」
…はい。
察しの通り…
この日、朝まで眠れませんでした…
――チャンチャン♪
…って、おいィ!!!
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