第2話 不気味な御札、不気味な音

引越しから2ヶ月が過ぎた頃、時期はずれの台風のような嵐に見舞われた。


仕事にも少しずつ慣れ、幸運な事に新車販売に成功した私は毎日が楽しくて仕方が無かったと記憶している。

お祝いに半額の寿司をスーパーで買い、仕事終わりに雨に降られて立ち往生していた友人を拾って自宅へ帰った。

車を駐車場に入れ大雨の中急いで玄関のドアを開ける。

友人が先に中に飛び込み、私も傘の滴を落としてドアを後ろ手に強く閉めようとした。


と、その時視界の左側にヒラリと紙のような物が落ちるのが見えた。

その紙のような物はまるで糸で引かれる様にスっと閉まりかけたドアの隙間から外へ出て行ってしまった。

友人もその様子を見ていたらしく、


「何か外に落ちたね」


と言う。


一応確認しよう、という事になりそっとドアを開けると、門灯のぼんやりとした明かりに照らされて玄関先に紙が落ちているのが見える。

目を凝らすとそれは細長い紙にミミズの様な赤い文字と黒い文字で何かを書いた御札だった。

それが玄関の何処に貼られていた物かわからず、雨に濡れて滲んだ札には何が書いているのかもわからない。

その時は特に気にせず、田舎に良くある家内安全の御札か何かだろうとそのまま放置した。


ドアを閉め「御札だった」と言うと、友人も頷き「うちのじいちゃんちにも貼ってたわ」と言って台所へ。




風呂に入り、翌日が休みなのをいい事に友人とビールを飲む。

映画を観ながら寿司をつまみ、寿司がなくなるとスライスしたサラミを用意してまた飲んだ。


ビールを4缶ほど開け、丁度映画も終わったので寝る事になったがどうにも目が冴える。

テレビはつけているが電気は消している。

外は相変わらずごうごうと風と雨が窓を叩きテレビの音も聞こえ難い。

友人はさっさと部屋に戻り、二階には自分ひとり。

一時間ほど携帯を見たりトイレに行ったりモゾモゾとしていたが、やがて酒の力もあり眠気に負け目を閉じた。










どれほどの時間寝ていただろう。

もう時期は12月も近いと言うのに尋常ではない寝苦しさに目を覚ます。

身体は異常に火照り濡れた髪が顔に張り付くほどの寝汗。

酒のせいかと思い身を起こそうと目を開いた瞬間、何故か急激に意識がハッキリとしていった。


テレビは消え、雨も風もやみ屋根から水が滴る音が耳に入る。


暫く目だけを動かして辺りを見回していたが、不意に不気味な音が聞こえてきた。




ズズ・・・ズズズ・・・・・・




その音は、見上げる天井から聞こえてくる。

まるで何かを引きずる様な音が私の真上を西へ東へと動く。

ハッキリした意識の中、布団からは手足も出せず身体は固まったまま。

その天井から聞こえる音が嫌でも耳に入る。

鼠か?蛇か?

可能性のあるものを思い浮かべるが、その音はどう聞いてもそれなりの大きさと重さのものが天井裏を這うように動いている・・・と感じた。

時折「こつっ」と硬いものがあたる様な音が聞こえ、その後は長く長くズズズズ・・・と引きずる音が続く。


ギョロギョロと目を動かして音のあとを追う。

何度も何度も天井を行き来するその音はいつまでたっても消えることは無く、時折ぴたりと動くのを止めてはまた動き出す。


どれくらい経ったのか、汗の不快感と不気味な音への恐怖感に耐え切れなくなり勢いを付けて掛け布団を蹴り上げた。

布団がドサっという音を立てて畳の上に落ち、冷気に晒された身体を無理やり立ち上がらせるが、その音はいつの間にか消えていた。





翌朝、具合の悪い身体を引きずり一階へ降りると、友人が朝食をとっていた。

見るなり「二日酔い?」と聞かれるほど顔色が悪かったそうだ。

二日酔いではなかったが、風邪をひいていた。

病院に駆け込み、薬を貰い友人に運転を頼み帰宅する。


この風邪は2日程で治ったが、この日から徐々に謎の体調不良に襲われることになる。

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