霧②
「迷惑を掛けたな、まさかカミラが神軍に再合流していたとは。神と魔族が再び手を取り合い、異分子である人を虐殺するとは予想していたがな」
「黒幕は神王だ、真名はチェルノボグ。調べられたのはこれくらいだ、お前の言う無茶はこれきりにしてほしいものだ」
小さなトンネルで少しだけ休憩している間に、弓の弦を変えているアタランテは、こちらを見ずにそう言う。
久しく連戦による龍力消費をしていなかった為、ふわふわとした頭で冗談めかした言葉を理解しようとするが、膝の上で眠るアリスを見ているとこちらまで眠気に襲われる。
「おい、そろそろ出るぞ。人間の匂いだ、恐らく龍人とぶつかる為の軍隊だ。規模は2000辺りだろうな、今の私たちでは苦しいな」
目を閉じたままアリスを抱き上げてアタランテの足音に着いて行くが、直ぐにぶつかってしまい、目を開けざるを得なくなる。
目の前に映ったのは、純白と表すには足りない程の輝きを放った白が、金色の騎士と睨み合っていた。
七星の騎士同士の仲の悪さは以前から知ってはいたが、こうもガラの悪い関係性とは思いもしなかった。
皆神王の下に集った大陸最強の騎士は、7人だけで大陸を掌握出来る程と謳われ、その中でも特に白騎士は群を抜いている。
先の戦争で刃を交えた時は、ミョルニルとパラシュ2つ持ちでないと、漸く対等な舞台に立たせて貰えない程強烈だった。
金色の騎士の戦い方は大軍を相手にするもので、一対一で睨み合うには圧倒的に経験もポテンシャルも劣っている。
先代の金色も同様な戦い方であったが、世代が交代して娘に金色が受け継がれてからは、特に大軍に対する技が磨かれている。
今の私にはミョルニルを最大限に扱う事が出来ず、パラシュを長時間現界させる事もままならない。
そんな化け物相手にこの体で立ち向かっても……
「いや、貴様は娘か。先代の白騎士は死したな、人間の寿命ならば森精霊の延命魔法でも確実に生きてはおれぬ」
「確かに私は娘だ、だが父より剣を受け継ぎ、代を受け継ぐ毎に進化し続ける。私は父よりも強い、何を期待している」
「ほぅ、先代ならば誰かより強いなどと言わなかったがな。人の上に人をつくらぬのがやつだ、己が一番と言う確信があるからこそのものだ。やつは確かに強かった、おぬしよりもな」
「貴様、これ以上の愚弄を、この白の剣が見過ごす事は出来ん。父より受け継ぎし絶剣を見よ」
「元からそれが目的であろう、私が相手をしてやろう。親子2代に渡って相手にするとはな、白騎士の絶剣を再び見せてもらおうか」
「そんな安い挑発に乗る気は無い、私の剣はまたの機会に見せよう。私が貴様らの下を訪ねた理由は、霧についてだ」
ケルトに生ける者なら誰もが知るその名を冠する者は数多居たが、白騎士が今言っている霧と言うのは、最も強大で悪と言われる劫初の巨人。
北欧の神ならば誰もが恐れるこの世界そのものの本来の形であり、巨人と人間の祖とされる神の敵。
父を含めた3神に倒され、残骸は精霊となった筈だが、その精霊の姿が目の前に現れたのか、それともまた違うなにかなのか、次々に起こる異変が復活の証明なのか、全てが分からない。
今までの積み上げて来たものが一瞬で崩れ去る音が聞こえ、崩れ落ちそうになる体を膝に手をついて支える。
「本当にユミルが再び世に出たなら……フルングニルが前兆か、兎に角やつが出てきたらこの世界はどうなるか分からぬ。今の魔法が衰退した世界なら尚更だ、昔は人類でも高火力な魔法が使えた。今はどうだ、人間は殆どが魔法を使えず、ハイエルフでもエンチャントがまともに付与出来ない」
「確かに、私とトールは古代を知っている。その時代に対して今の魔法技術は比べるまでもない。私たちが眠っている間に何があった、意図的に衰退させられたとしか思えん」
共に先の戦争を生き抜いたアタランテは頭を抱え、このどうしようもないくらいに行き詰まった現状を、未だに理解したくないとでも言う様に目を閉じる。
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