霧①
「ふっ……はははははっ。お前たち、考えが甘いな。そんなハッピーな頭に私は仕込んだ覚えは無い」
「当然だ、私はお前の教えなんて心に刻んだことは無い。この場で深手を負わせてやる」
「吠えるなアタランテ、お前の魔法如き剣を使わずとも私に当たる前に消え去る」
「それはどうだろうか、これはトールの作った最高峰の狙撃魔法だ。ストレルカ!」
光の矢を番えていたアタランテの手から魔法が放たれると、カミラの目前で光が打ち消され、その中から何の変哲もない矢が姿を現し、カミラの腹部に突き刺さる。
その矢から拘束の魔法が展開しようとしていたが、魔殺しのカミラはものともせずに鎖を引き千切る。
だが離脱する私たちを自ら追い掛ける事はせず、手下の雑魚が道を塞ごうと壁となるが、対軍魔法を得意とする金色の騎士が払った剣は、振り切っていないにも関わらず壁を一掃する。
「バンシー!」
金色が左手で編み込んだ魔法が上空に打ち上げられ、雨が一時的に降った途端に取り囲んでいた雑魚が次々に落ちて来る。
バタバタと地上に叩き付けられていく悪魔は、雨に打たれた時点で絶命していて、それは妖精であるバンシーがすすり泣く音にも聞こえた。
「ここまでとはな金色。この先でアリスを休ませたい。私が安全な場所を案内しよう、もっともどこに居てもカミラなら簡単に感じ取れてしまうがな」
地面を力一杯蹴って出来るだけカミラから距離を取ろうとしていたが、既に目の前に立って待っていたカミラは、槍を前に突き出して魔法を放つ。
太陽の様に熱い光線が飛び退く前まで立っていた場所を焼き、陽炎が向こうを揺らしている。
「甘い、貴様らの神力や魔力は感じ取る事が可能だ。矢を1つ突き立てただけで逃げられると思ったか」
「いいや思わない、それにお前は皆を照らす太陽だ。どちらにしろ生きとし生けるもの太陽の光からは逃げられん、ならばこちらの有利な所で叩くのみだ」
「そう言う事だ、すまぬなカミラ。貴様なら追ってくると思っておったよ、ここはどこだか分かるか」
「……はははっ、深淵への扉か。だがこれには欠点がある、扉を開く鍵は龍の渓谷の底深くに落ちた」
気を失っていたフリをしていたアリスが腕の中から飛び起き、すっかり輝きを取り戻した剣を鞘から引き抜くと、深淵への扉がゆっくりと開く。
「今すぐに閉じろ! 貴様らは勘違いをしている、それはなにを閉じ込めておく為の扉か分かっているのか!」
「光を途絶えさせる館、ブラックアウト」
「それはそんなに甘いものじゃない、お前たちはユミルを……」
「俺を連れ出すのは貴様らか!」
扉から這い出てきた小さな人は、カミラに全力の魔法を撃たせるには不十分に思えたが、まともに直撃したにも関わらず、無傷のままその場に踏み止まっている。
纏う雰囲気とカミラの焦りから良いものでは無いと分かったが、魔法を編んでいる間に人の腕が目前に迫り、強引に避ける為に体を捻って飛び退く。
「お前はオーディンの血を引いている、楽には死ねんと思え」
突然の濃霧に包まれて視界を奪われ、気付けばカミラと深淵から這い出てきた人の姿は消えていた。
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