Endless Happiness⑧
幸せと言うものは長くは続かない。
それが大きなものである程、燃え尽きるのも無くなってしまうのも早い。
物足りなくなってしまった小さな幸せでは、もはや幸せとすら感じられなくなる。それに気付くのはいつも後悔する時で、同時に己の愚かさと傲慢さを知る事となる。
大抵のやつは1人で生きていけるだなんて大きな見栄を張るが、実際そんな事出来るはずもなくて、居ない誰かにすがることもある。
それは神であったり、人であったり、動物であったり。皆酔っているのだ、たったひとつでも信じられる信仰が、謎の勇気を与えては人を殺す。
「私も酔っていたひとりなのだ、1人で生きていけるなどと見栄を張った相手が、家族と心の底で甘えていた大切な人であったのだからな」
「突然どうしたよ、傭兵相手なら手を抜いてても十分ってか」
「俺の名はクロウってんだ、よーく覚えときな。次の戦争では敵でも味方でも嫌って程名前を聞くことになるだろうよ!」
「知っておるよ、何せ魔族として人間の争いに首を突っ込んだ愚か者だからな。だが、少々殺し過ぎたのだ貴様は……準備は良いか鈴鹿!」
「ええで、任せとき!」
「解除、分解、還元」
目の前の魔族を分解して魔力として解き放ち、不安定になった空間に鈴鹿が刀の魔力を全て叩き込む。そうして出来た空間の穴を広げて鈴鹿の手を掴み、作られた幻想の中から抜け出す。
「よく出てきたものだ、私が2日掛けて用意したものをこうも早く破るとはな。流石と言うところか、まだそれ程時間は経っていない。入った邪魔が下でボロボロになって頑張っているぞ」
「……アリス、最早慈悲も無いかカミラ!」
「1000の兵に勝る程とは言え、まだ子どもなのだ! この様な過酷を強いて、周辺諸国が黙っているものか!」
「戦場に出れば皆平等に騎士だ、騎士となる事を望んで剣を取った小娘に、誰が普通を強いる権利がある」
「だが、我々神が人間に干渉する権利など無かろう。古に神と魔族が結んだ勝手な契約で、人間は大いに苦しんだ。だが、人間は弱いながらも戦い抜いたのだ!」
「そうだな、その戦争の英雄。同胞殺し、人類の友。貴様らはここで死ね」
黒い壁が力を酷使し切った鈴鹿に向かって来るのを受け止め、近くなって個体となった壁だったものを、間合いに入った者から斬り伏せていく。
数の差を覆す事も出来ずに鈴鹿を抱えてアリスの下に向かい、背後に龍力が時間差で爆発する魔法を仕掛けるが、壁の一部に穴をあけることが出来ても、直ぐに次の悪魔がそれを塞ぐ。
「アリス!」
「アイネ! 来ないで!」
「儚いな、命と言うものは」
その行動を先読みしていたカミラの剣が視界に入り、鈴鹿を抱える手を動かせずに直撃を覚悟する。
「ストレルカ!」
「チッ、新手か。結界は張ったつもりなんだがな!」
突然向きを変えて飛来した光の矢を弾いたカミラを、連続して光の矢が襲い続け、防ぐ事に手一杯な内にその場を離脱する。
隣を走るアリスを左手で抱えて崖の上の茂みに突っ込み、地面を滑りながらアリスの傷を治す。
「おい、あれはどう言う事だ。まさかカミラが魔族に付いた訳じゃないだろう」
「助かったアタランテ、カミラについては私もよく分かっておらん。どうしてこうなったのか、数日前までいつも通りだったのだが」
狼の様な耳を動かして微細な音を拾いながら、アタランテは足止め用の罠を、神力を編んで作る。
魔殺しのカミラに通用するかは分からないが、少なくとも警戒する為に足は遅くなるだろう。そんな程度の気休めにしかならないのは、恐らく誰が何人居ようが変わらない。
「さて、分が悪いが、このまま子どもたちを放っておくのは貴様に出来そうにないな」
「話が早くて助かる」
「こっちとしては大迷惑だ、狩りにしては狩り応えがあり過ぎる。あいつは全ての神の師みたいなものだからな」
「どう打開するか検討もつかぬ、最早これまでか。巻き込まれ損じゃな」
「私が考えもしないで突っ込むと思うか? そう思うなら貴様は長年私の何を見てきた、手を貸せ金色」
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