World Of Dawn⑤

浴場での騒動で包まれていた喧騒は今はなく、静かに短剣を手入れするカミラの言葉を待ちながら、濡れた髪の手入れをする。

椿から抽出したオイルを浸透させてから、炎を介して温風を起こし、風を揺らしながら髪に当てる。


その中にある金色こんじきの髪だけを手の上に乗せて眺めていると、視界の外から現れた短剣が、金色の髪を根元から斬る。

手の上に乗っていた金は一瞬で黒に変わってしまい、暗い部屋で輝きを放つ唯一の光が消える。


「そんなものあっても邪魔だ、私たちには眩すぎる」


「じゃがこの分の時は戻らぬ、直ぐにまた生えてこよう。じゃが、もう時間が無い」


「神力を使うな、そうすれば貴様は長生きが出来る。違うか?」


「……そう出来ればしておるわ、ヨトゥンが出て来た今加減が出来る程甘い戦局ではないと、おぬしが1番分かっておろう」


ポケットの中にいつも入れている髪の入った小瓶を取り出したカミラは、それを机の上に置いてベッドに腰掛ける。

その隣に2つの空の小瓶を並べ、自分の髪を少し切って、小瓶の中に入れて栓をする。


「これはまじないだ、戦場に行く想い人に渡すものだ。貴様に好意は無いが、無事に帰って来られるようにとの気休めだ」


私の銀の髪を少し切ってもう1つの小瓶に入れて、互いの髪が入った小瓶を交換し合う。

小瓶を持って部屋を出ようとしたが、真剣な顔のままのカミラに腕を掴まれる。


「勘違いするなよ、早死にはするものじゃない。貴様の死に様こそ気様の生き様、散った者たちの為にしに方は考えろ」


「心得た、おぬしもずっと長生きするんだ。クライネたちを頼みたいからのぅ」


「誰が2度も餓鬼の面倒など見るか、そんなもの貴様が見届けろ。明日が終わるまでにクレープを持って来い、それが出来なければ貴様はクソ以下として名を残す事になるぞ」


「相も変わらず無茶苦茶なお犬様じゃな、この小瓶に嫌でも助けられそうじゃ。アテにはしておらぬがな」


「言っておけ、貴様の役に立たん勘よりは役に立つだろ」


今度こそ部屋を出て月光が照らす廊下に足を踏み出すと、背後からねっとりとした殺意と、チリチリと熱い殺意が同時に首に突き刺さる。

腕だけを龍化させて振り返ると、月明かりの当たる場所に甲冑の足下が現れ、黄金の甲冑を身に纏った騎士が現れる。


「貴様がトールだな、そう身構えるな。今回は剣を交える気は無い、取り引きに来た」


「……ふんっ、人間如きが偉そうに私と対等な取り引きを持ち掛けるだと? 言語道断、無礼千万であるぞ!」


「貴様こそ、私を人などと言う下等な生物と見誤るな」


兜を外した金色こんじきの騎士は少し前に歩み出て、私に人間ではないと言う証を見せるために、頭に生えている角を見せる。

山羊の角を生やしたその頭は鮮やかな金に輝き、その名に違わぬ美しいオーラを放つ。


「悪魔の類か、表舞台に出て来るとはな。私の前に現れると言うことは、殺されても文句は言えぬぞ」


「やれるものならやってみろ、その奥に秘めた力を使わねば不可能だがな」


全てを知っていると言う様な口振りをする、目の前の金色の騎士の話し合いに応じるのが得策と判断し、臨戦態勢を解く。


「簡潔に話せ、カミラに見つかれば有無を言わさず消されるであろう」


「帝国を滅ぼしてほしい、真の敵は神王だ」


「はははははっ、囁きに来る言葉があまりにもお粗末だ。世界を守護する一角が敵だと? 利用するならもっと考えてから来るが良い」


「明日の人身売買が行われる会場で待つ、貴様もそこに来るのだろう。そこで全てを見せてやろう」


それだけ言って消えてしまった金色の騎士と別れ、分かってはいるが、どうしてもあの言葉が気になり、自室に戻っても直ぐには寝付けなかった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る