World Of Dawn④
水が揺れる音と流れる音を聞きながら湯船に足を浸け、血行を良くしていると同時に、少しずつお湯に龍力を流し込む。
気持ち良さそうに瞼を瞑っている軍師を一瞥してから、体を洗う為に足を湯船から出して、石鹸を泡立たせて、龍力で作った水を炎で温め、頭の上に留める。
丁寧に汚れを落としてからお湯を全身に被り、今度は湯船にゆっくりと肩まで浸かる。
龍力で満ちた湯船に花を咲かせ、ひとつ手に取って龍力を流し込み、結晶の中に閉じ込めて保存し、湯船の縁に置いておく。
軍師は光る板を指で突っつきながら真剣に何かを見ていて、花が咲いたことなど、気にも留めていない様子だった。
漂っている薔薇を拾って軍師に投げるが、それさえも相手にされることは無く、光る板と一体一で戯れている。
仕方無く浴場を隔てている壁の向こうに花を投げると、「なんやこれ、花が降ってきたわ」と、鈴鹿の声が響く。
「本当だ、何でこんなものが……あっ、また降ってきた」
いつの間にか居たナーガと不思議そうに話し合う鈴鹿が、壁際に寄ってくる音が聞こえる。
「なぁ、アイネはん。花が降ってくるんやけんど、そっちは何かあらへんか?」
「湯舟が花で一杯じゃ、悪くないがな」
「ほか、まぁ害はないんやからえいんやけんど……」
不思議だと言う風に声を小さくしていく鈴鹿のことばの途中、水に何か大きなものが飛び込む音がして、ナーガの悲鳴が響き渡り、流石の軍師も飛び跳ねる。
「飛び込んだら駄目だよ、そういうところ以外大きくなってしまって。怪我でもしたらどうするのです」
「相変わらずナーガは硬い事言って、それだから型にはまった戦い方しかできなんでしょ」
感じたことの無い異様な魔力を放つ誰かは、休む暇なく花について騒ぎ始めて、一気に静かな浴場を騒がしくする。
「ふむっ、その面影のある声はアリスかの?」
確信の無い考えだが、何故か根拠の無い自信はあった。
だが向こうがその問い掛け以後静かになり、まさか外して恨みを買ったのではないかと不安になる。
仕切りと天井の隙間からブロンドが顔を覗かせると、恐る恐る顔を出して、その緑色の双眸と目が合う。
パッと見ただけでは変わり過ぎていて気が付かなかったが、僅かに残っている面影を繋ぎ合わせ、それが良く知る少女だと確信する。
「やはりアリスではないか、元気そうで何よりだ」
「アイネだ、今までどこ行ってたの? アリスはすごく心配だったんだよ」
壁によじ登って全身を乗り出したアリスが壁を軽く蹴り、もう一度大きな水柱を作って、崩れた水の中から姿を現す。
「戻らぬかアリス、伴侶でもない者に素肌を見せるなどあってはならん。分かったら……」
「IMPACT!」
アリスはそう叫んで突然水面に拳を叩き付け、大きな波を作って私にぶつけようとする。
波を斬ろうと剣を構えたが、割れた水の壁から剣を携えたアリスが現れ、水を割った切っ先が頬を掠める。
「避けちゃ駄目アイネ、カミラからの伝言だから」
「ならば言葉で言えば……」
「帰って来たら一発殴ってやれ、私はそれに賛成したから殴る」
「分からず屋な暴力娘め」
公国を3年間離れていた間に、格段に成長を見せたアリスの斬撃は、元々のセンスもあるかもしれないが、無駄が殆ど省かれていて、どれも敵を一撃で仕留められるものになっている。
アリスの手の中に握られている剣は、恐らく3年前見た時は、まだ風化して使い物にならなかった筈、だがそれを再び覚醒させているならば、それは間違いなく神王が使っていた、空から承りし剣。
あまりにも無謀な賭けに身を投じる覚悟を決め、アリスの剣を龍力で強化した鱗に当て、左手を掴んで自分の頬に添えさせる。
「ふむ、一発じゃな、今回はこれで勘弁して欲しい。駄目かの?」
「なっ……アリスは3年前より凄く成長したのに、これじゃあ自信なくしちゃうよアイネ」
「何を暴れているこのクソ問題児共が! 風呂くらい静かに入れんのかこのクソ以下が!」
浴場の扉を開けて飛び込んで来たカミラが叫び、七星剣を仕舞って背筋を伸ばしたアリスを、軍師の目に映らぬように翼で隠す。
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