自分が生き甲斐なやつは⑥
オシナの凶刃を避ける為に背後に倒れて、二の丸の一番上から地面に向かって落ちながら、翼を広げて地面スレスレで、地面と並行に飛行する。
進路に突き刺さった刀の前に突然姿を現したオシナの重い一撃を剣で受け止めるが、勢いなどお構い無しに弾き飛ばされ、後方に飛ばされる勢いを殺して、一回転して地面に足を着く。
握っていた剣を通じて響いた一撃で手が痺れ、まともに剣を握る事も出来なくなり、左手に持ち替えざるを得ない。
殆ど気付けば通過しているオシナの刀を防げたのは良いが、次また防げる保証など何処にも無く、正直怪我をする前にやめておきたい。
「のう、お前らがこの国に入って来てくれたお陰でな、民の心が私から少し離れた。お前らの事を崇拝する様な事があったらどうすんねや」
「おぬしが怒る理由はいつも小さな事じゃ、私たちに民心が傾く事は無かろう。それ程まで弱い存在なのかおぬしは」
「あー、口答えすんなやムカつくな。今からは加減無しや……
そう呟いたオシナの心臓から赤い線が浮き上がり、体の中心から指先に広がって、刀を真紅に染める。
僅かな砂を舞いあげて音も無く姿を消したかと思うと、背後から鉄と鉄がぶつかる音が響いたかと思うと、前方に大きく吹き飛ばされ、ミョルニルとパラシュが私の上で尻餅を着く。
自らを携えて咄嗟に立ち上がり、地面から少し浮いたオシナを睨み、またオシナも鋭い眼光でこちらを睨んでいた。
これは敵に対して本気を出すと夢にも思わなかった為、どうしても笑いが込み上げて、つい口から漏らしてしまう。
「くはははっ、ヴァナルガンドを目覚めさせてしまう故使いたくはなかったが。神力を使わねばならんな、行けるなミョルニル」
「当然よ、あいつ本気で殺しに来てたし。マジで扱いムカつくから、1発と言わず何発でも入れてやるわ」
「うむ、パラシュはどうじゃ?」
「僕だって行けるさ、でも神力は奥の手にしておいてくれないかい?」
「あい分かった」
地面に自らを突き立てて、一体化して完全な武器となったミョルニルとパラシュを掴み、龍力で全身を包み込んで強化する。
今度はこちらから雷を纏って踏み込み、ミョルニルを下から振り上げる。
防がれたミョルニルが容易く止められ、前蹴りが鳩尾に飛んでくるが、左回転で右に避けつつ、左手のパラシュを力一杯叩き込む。
柄を左手で押さえてまたも容易く受け止めたオシナは、刀を走らせ、飛び退いた私の鱗を掠らせただけで数枚持っていく。
「大した事ないのぅ、酔狂な割にこの程度か。お前の親の顔が見てみたいな、ここまで愚かに育て上げたなら、余程無能なのだろう。お前にはお気に入りが居ると聞いた、それもすぐに王の座を奪われた愚王と来た。ほんに滑稽よのぅ」
「私の事を罵るのなら構わん、だがな……あのババアとクライネを馬鹿にするな、お前を殺しかねん」
「その程度で死ぬ様な稽古は受け取らん、お前みたいに軟弱ではないからな。負け犬如きが私に説教をするか? 愚かなお前が居るから、周りまで愚かになるのだ」
頭の中で何本もの血管が切れた様にブチブチと音がして、風で靡いた髪の毛先が、少しだけ金色になっていた。
龍力ではなく神力が溢れ出ようとするが、何とかミョルニルとパラシュが制限させていた。
私自身も抑え込もうと必死に堪えるが、オシナの言葉を聞けば聞く程、気持ちに反して神力が高まる。
「おやめ下さい御館様! トール殿を怒らせてはなりません、トールも堪えてください!」
二の丸から走って来ているトコハナの声がまだ聞こえる、まだクライネの事を覚えていて、ババアの事を覚えていて、人の温かさが腕の中にある。
それで完全に飲み込まれてないことを認識して、少しずつ気持ちを鎮めていくと、神力の増幅が治まる。
靡く髪の毛先も白色に戻っていて、何とか抑え込んだが、私の中では後悔と次の目的が決まりつつあった。
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