叫び続けて⑦
戦場に乱入して少しすると、瞬く間に敵兵に囲まれる。
流石に1人で大人数を相手出来る筈も無く、前の兵を切り伏せている間に、背後の兵に斬られ、反転して兵を斬り捨てるが。また別の方向から切り付けられる。
鱗を通さずに滑る刀の刃が当たると、嫌な音を立ててへし折れ、脇差を抜刀する。
ずっとそれの繰り返しで、好い加減うんざりしていたが、龍力を使ってしまっては、正々堂々を好む鬼族の中で、オシナの立場が無くなってしまう。
周りの兵が突然居なくなったと思うと、雰囲気の違う刀を携えた武士が、大したことの無い速さの突きを放つ。
何かが起こる前に壊そうと剣を振ると、突然刀が怪しい光を放ち、膨大な量の魔力と共に飛散する。
爆風と衝撃波に吹き飛ばされて、鉄が鱗を突き抜けて肉が抉られる。
完全に驕っていた私の自信諸共打ち砕け、痛みとなってこの身に思い知らせる。
「この私を侮るな、その程度で殺せるとでも思うたか」
「思ってねぇよ、だから俺の接近を気取られない用の捨て駒だ」
爆破に続いて硬いものが頭に直撃し、大地を大きく吹き飛ばされる。
私を殴った不届き者を目視すると、それはどこかで見覚えのある、昔、傷を負わされたフルングニルだった。
復讐の為にヤーパン国に紛れ込み、私を仕留められる機会を伺っていたのだろう。
執念深いやつだと感心してやりたいが、そんな気分ならとうに見逃しているだろう。
脳震盪で地面に座り込み、剣をまともに握れない私を見て、フルングニルはその姿を真の姿に戻す。
巨人族の中でも上位に居る相手に、この状態では不利だが、勝てない相手ではないだろう。
「ミョルニル、パラシュ。私に力を貸してくれるかの?」
帰って来ない返事で、2人に見捨てられた事を思い出し、余裕ぶって出た舐めた発言を撤回し、飛龍に姿を変えて飛ぶ。
只管龍力を放出しながら回避行動を続けて、今溜めている龍力を、一斉に叩き込む機会を伺う。
大きな砥石を避け続けながら戦場を見ていると、ぎりぎり目で追える程の速さで、且つ、最も素早く切り返す事が出来る動きで立ち回るトコハナが、大きな巨人の存在に気付く。
周りの兵は目の前の敵に必死で、ウラノスにまで届きそうなフルングニルに、全く気付いていない。
私が持ち込んだ面倒事に首を突っ込みたくないトコハナは、私から視線を外して、敵陣深くまで突き進む。
仕方無くバハムート型になって龍力を高めるが、大きさ的には、龍人と虫の差のままだ。
ミョルニルにも無い今、フルングニルとまともにやり合っても、再び龍力を枯渇させてしまう程、全力で戦い切らなければ勝つのは不可能だろう。
「どうしたどうしたトール! お前はそんな程度だったか? それともミョルニルが無ければこんなに弱かったのか?」
「チッ、1人で姦しいやつじゃな。ならば逃げるのも飽きた、死して名を残せ愚か者」
溜めていた龍力でデコイを前方に放ち、人型に戻って死角から忍び寄る。
狙い通り、デコイに向けて砥石を振り下ろしたフルングニルに、大きな雷を見舞う。
天まで伸びる巨体が雷の柱に飲み込まれ、悲鳴と共に砥石が大地に突き刺さる。
「ははははっ! 酔狂よな、わざわざ神の塔に呑まれに来るとはな」
フルングニルを上空から見下ろしていた私の腰に、突然何かが巻き付き、フルングニルの顔の前に引っ張られる。
消滅した神の塔から出て来た顔は焼け焦げ、白く変色した眼球が、しっかりと私の目を見る。
「今は神でないお前の一撃なんて、今じゃ誰も殺せねえぜ。あのドラゴンが偽物なんて、神力を見れば分かるだろ」
「これはどうしたものか、ここまで事が順潮に進んでおる。おぬしの単細胞さのおかげかのぅ、おぬしらに対して、私は膨大な量の憎悪を抱いておる事、しかと忘れるな」
体の中で燃やし続けていた龍力を、今度は爆発させ、デコイの中に仕掛けた仕掛けを起動させる。
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