叫び続けて⑥

既に混戦となっている戦場を見下ろし、両者入り乱れる乱戦となった地獄を見て、昔の戦争を思い出しては、1人の神を思い出す。

そして、その神を思い出して、1人の少女が記憶の中で笑う。


そうして思考は際限無く繋がりつつも、私の理性に押し込められながら、隅に小さく小さく追いやられ、無情にも現実に引き戻す。

記憶が反映された龍力からは、神が作った失敗作である、悲劇の産物が溢れ出る。


屍の様な姿形をしたそれは、見境無く動く者を襲い、生命活動が途絶えるまで肉を貪り続ける、どうしてこんな悲劇になったのか分からないが、どうしても収まってくれない。


「何をしてるのクソドラゴン! 龍力を黒に染めないで」


「龍力の放出を止めるんだ宿主。ミョルニル、僕は作られている産物を消す。君は宿主を止めてくれるかい?」


「上等じゃないの、ぶん殴ってでも止めるから。あんたこそ被害を出さないように励みなさい」


先の戦で見た景色は、この世のものとは思えない程に荒れ果て、私が体から出している傀儡に、色んな種族の者が食われる。

長期に渡る戦は人を荒れさせ、普段出来ない事を平気でさせてしまう、それが分かっていながらも、ミョルニルの言葉を聞いているが、理解がある出来ないほどに荒れていた。


「ハナれヨミョルニル、コウナッてしまッタドラゴンは、龍力が枯れてから殺す他ない。ソノヤクを、タノめるナ」


「はっ、冗談じゃないっての。私はあんたと契約してしまってから、攻撃が全く通らなくなってるの忘れたの? 介錯なんて出来る訳ないでしょ」


「私は……叫びツヅケて、来たノだガ。コノせカいハ、変わったデあろウカ?」


「なーんにも変わってない、その沸いた頭も。この沸いた世界も、あんたを馬鹿にするクソ野郎共も。もうちょっと叫びなさいよ、そんなの間違ってるって」


「そうそう、あんたには生きててもらわないと、私たち反ゼウス派は困るんだし、この世界が終わっちゃうっての」


背後から聞こえた声の主が振り上げた獲物を私に振り下ろすと、思考を支配していた悪夢が過ぎ去り、心が突然穏やかになる。

自由が利くようになった体で傀儡に向かって降下し、片っ端から龍力をぶつけて消滅させる。


それから、私の悪夢を切り払ったメアに目を向けると、鎌を肩に乗っけて降りてくる。


「感謝するメア」


「気にしない気にしない、私だって助けてもらったんだし。私たちはwin-winの関係っしょ?」


「違うな、ただの神と神だ。おぬしと関わると面倒だからな」


「ひっどぉぉぉぉ! 助けてやったんだからもっと感謝しろよ〜、ほらほらありがとにゃんってさー」


メアのダル絡みを無視して、ミョルニルとパラシュの隣に降りる。

斧を地面に突き刺したパラシュは、私の鼻を指で挟み、上に引っ張りあげる。


「痛いパラシュ、鼻が取れる取れる」


「今のあんたにはそれくらいのが丁度良いわ、ミョルニルちゃんとパラシュちゃんに怒られときゃいっしょ」


「だから、悪かったと言っておるだろう2人とも。私はちくっと取り乱しただけじゃ」


「開き直んなクズドラゴン、言っておるだろうじゃないでしょ、まずはきちんとごめんなさいじゃない訳?」


「ミョルニルはこう見えて礼儀が出来てる、正論を言っているから君は従うべきだ。もう君なんて知らない」


「あー、私ももう良いわ。戦争を殺すとか言ってたから認めたけど、もう付いてく必要無くない? じゃあね」


どこかへ消えてしまった2人に置いてかれ、気不味そうに頬を掻くメアと残されたが、そのメアでさえ消えてしまう。

1人取り残された私に追い打ちをかける様に、戦場から離れた侍が、刀を構える。


「俺の名はソウジ、オシナの客将と見た。正々堂々と剣で勝負願わん」


「……良かろう、だが今は加減してやれん」


己の牙で作った剣を虚空から取り出し、龍力も何も使わず切り伏せる。

そのまま走り出して戦場に切り込み、オシナの部下以外を全て消し飛ばす。

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