君の心が動くまで④

ナイグラート龍王国王都上空に到着し、ギリギリ感知出来る程薄くなった魔力を辿り、倒れていたパラシュを見付ける。

細い路地に着地してパラシュに駆け寄ると、破れた箇所が多数ある服には、大量の血が滲んでいた。


「パラシュ、すまぬな。今治してやろう」


「全く、全て君のせいじゃないか。僕がボロボロなのも、ミョルニルの魔力が消えたのも」


「すまん」


「まぁ良いさ、君も随分と消耗し切っててボロボロだし。それで元気だったら僕は君を殴ってたよ」


尽きた龍力を生み出す為に、自分の血を龍力に変換して、アスクレーピオスの光で包み込む。

傷が感知したパラシュは起き上がると、魔力が乗っていない拳で私を殴る。


血を使った事により、貧血になって容易く吹き飛ばされ、目眩と衝撃で倒れ込む。

もう自分を出す事も出来なかったのか、手の形が歪む事を嫌がる彼女が、珍しく自らの拳で攻撃した。


「痛いではないかパラシュ、してミョルニルはどこか分かるか」


「さあね、僕も魔力が残ってないし。魔力ロケーションにも反応が無いみたいだね」


「ならば、地道に探すしかなさそうじゃな」


へとへとの体を手で起き上がらせて立ち上がるが、足がもつれて転びそうになる。

だがそれをパラシュが受け止め、肩を借りて暫く歩く。


「君も傷を治したらどうだい? 僕は構わないけど君が歩きにくいんじゃないかい?」


「もうミョルニルを治してやる分しか残っておらぬ、私は少し寝たらまた治るさ」


もう説得は無理と悟ったのか、パラシュは私の体をしっかりと支え直して、瓦礫で阻まれた道に出る。

どこか違う道を探そうとしたが、パラシュは動こうとせず、私を見て支えるのをやめてしまう。


「恐らくどこも似た状況だね、掴まってると良いよ」


ひょいと私を片手で持ち上げたパラシュは、積み上がった瓦礫を見上げて、私の顔をちらりと見る。

言葉の通りパラシュの首に腕を回すと、飛ぼうと身を低くしたが、何故か直前でやめてしまう。


「高い所は怖かったかい?」


「いや大丈夫じゃ、いつも飛んでおるし。その、何だ、格好良いと思ってな」


「大丈夫なら良かった、確かに君は空を飛ぶしね。ほらもっとしっかり掴まるんだ、行くよ」


軽い身のこなしでひょいひょいと瓦礫の山を登り、いとも容易く瓦礫の向こうに着地する。

そのまま城の方に歩き出したパラシュは、私を下ろす気配が無いが、突然立ち止まって口を開く。


「君は大きいね、もう少し小さくなれないのかい? 身長を高くするなんて見栄を張ってないで、持ち運びやすい様に調節してくれないかい?」


「確かに人間の姿ならば調節が可能だが、別に見栄を張っておる訳では無い。私は美しく見えるベストな大きさをだな……」


「早くしてくれないかい?」


「むぅ……これで良いかの?」


身長が157しかないパラシュより小さくする為に、渋々179から139まで小さくする。

それ位が丁度良かったらしく、珍しく笑顔を見せたパラシュは、少しバランスを崩した私を抱え直す。


傍から見れば姉弟に見えるものなのかと、誰も居なくなった王都の街で、そんな柄でも無い事を考える。

そんな柄にもない事を考えた罰か、迎撃する龍力も魔力も残っていない私に、瓦礫の間をすり抜けて来た影が飛び付いてくる。

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