君の心が動くまで⑤
「アーイネー! やっと見つけた」
飛び掛ってきたアリスが私の上半身をホールドし、吹き飛びそうになる私を離すまいと力を入れたパラシュが下半身を掴み、3人一緒に地面に倒れる。
アリスを投げ飛ばしたパラシュは私に手を差し出し、パラシュの手に添えた私の手を取り、勢い良く引き上げられる。
勢い余ってパラシュの胸に飛び込み、自分よりも少し頼りない胸に受け止められる。
ロクに自立出来ない私を再び片手で持ち上げ、猫のように着地したアリスが、次はパラシュの隣で止まる。
「元気が良いのは構わないけど、この子は怪我人なんだ。出来るだけ痛みを与えずに殺さないと駄目だよ」
「全く、殴らぬと言って早々殴ったのは誰じゃ」
「アイネも戻って来たし、お城に戻ろー!」
「待てアリス、メルトとメアとミレニアはどうしたのだ」
「倒れてたミョルニルを回収してお城に戻ったよ、私はアイネとパラシュを捜してたんだ」
「そうか、礼を言うぞアリス。では城に行こうかパラシュ、頼むぞ」
城に向かって駆け出したパラシュにアリスが続き、所々燃えている民家の火を消しながら、家を失った人や、親とはぐれた子どもを集めて王城に入る。
王城の入って暫く周りを見回していると、メアが城の奥で手を振っている。
それに気付いたパラシュはメアの下に私を連れて行ってくれて、案内された部屋のベッドで、傷だらけで倒れているミョルニルが寝かされていた。
パラシュに支えられながらミョルニルの隣に立ち、アスクレーピオスの光で包み込む。
完全に龍力が尽きた私は恐ろしい程の倦怠感に見舞われ、ミョルニルの隣に倒れ込む。
私と対照的に起き上がったミョルニルは、私の姿を見るなり拳を作り、思い切り背中に叩き込む。
鈍痛が背中を駆け巡って脳に伝わり、殴られた箇所がじんじんと痛む。
「何よあんた馬鹿じゃないの! 勝手にどこか行ってボロボロになって、急に現れたと思ったら龍力で自分を治さないし! 私なんかを治してくれてありがと!」
「私なんかとか言うでない
「だから、私たちは武器だから死なないの! ただ武器の姿に戻るだけでしょ、1番あんたが知ってるのに馬鹿なの?」
「その通りだアイネ、君は一夜寝ただけでは治らない。治るのは僕たちの方だよ」
「だって、おぬしらが傷付いておるのを見ると……私は悲しいのだ」
「泣くなヘタレドラゴン、私だって泣けてくるでしょ馬鹿……」
目を擦っているとパラシュが頭に腕を回し、胸を貸して私の頭を撫でてくれる。
隣で泣いているミョルニルも抱き寄せて3人で固まっていると、次第に気持ちが落ち着いてくる。
「んで、私たちは何を見せられた訳? 確かに何かくるものはあったけど、そんな事してる場合じゃないし」
「水を差すなメア、私たちは生きてる事を噛み締めてるんだ。それとナハトの力も強くなっておった、パレス王国と衝突する事は避けた方が良い」
「ここまで届く程の大きな魔力、勿論抑えてきたんだろうな。それを見逃していたらお前は直ぐに死罪だぞ」
「抑えてきたに決まっておろう、それに私は死罪を1度言われておる。だが私を裁くのはゼウスではない、あんな糞餓鬼如きが王を名乗るのは面白くない。ガイアにのみ決定権がある」
ゼウスの力を色濃く受け継いだナハトの雷によって付けられた腕の傷を撫でて、もう1度パラシュとミョルニルを強く抱き締めて、2人を離してベッドに仰向けで倒れ込む。
「さぁ、そろそろ行かねばな。運んでくれぬかパラシュ」
「ねぇトール、まだガイアたちに未練があるの?」
パラシュに持ち上げられた私に向かって、メアは軟派な態度を見せずに聞く。
珍しく硬派な顔を見せたメアの気持ちを無下にはしたくないが、そんなもの答えてやる義理もない。
「行くぞパラシュ、待たせるとまた煩いからな」
「待ってトール! 彼女はティエオラを……」
「だが全ての神の母だ、彼女を裁く権利はあった。彼女に罪を犯させてしまった私の責任だ」
「あれは貴方の所為じゃないでしょ! ゼウスが……」
「行くぞパラシュ」
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