千変の百鬼将②

突然戦闘が始まってから暫く見ていても、人間相手にも関わらず、明らかにミドガルが押されていた。

騎士長の持つレーヴァテインは次々と姿を変え、間合いに適した戦い方でミドガルを追い詰めていく。

それもその筈、ミョルニルは私に最適化された武器である為、所有者ではないミドガルにミョルニルは真価を発揮しない。


「くっ……流石にレーヴァテインを持った千変の百鬼将と呼ばれたガルドナル相手に、人の姿では当然無理みたいね」


「出すなよ、ミドガルにはこの国で働いてもらう。絶対にバレるな」


何とか無けなしの気力を振り絞ってドラゴンの姿になり、爪でガルドナルを牽制しつつミドガルを口の中に放り込む。

翼を羽ばたかせて地面を思い切り蹴って、城の中からなんとか抜け出す。

一息ついて暫く飛んでいると、力が入らなくなって徐々に高度が下がる。


翼を大きく広げて風に身を任せていると、突如馬が地を駆る音が耳に響き、尻尾に矢が突き刺さる。矢は刺さると同時に爆発し、尻尾が落ちていくのが見える。


「爆発した矢に尻尾を持ってかれたか、すまぬが落ちるぞミドガル」


「近くに湖があるから、そこに人型になって落ちて」


眼下の湖を確認して翼を広げて軌道修正をして、墜落寸前に人型になってミドガルを抱きしめる。

ミドガルの頭をお腹に当てて、弾頭のように覆い被さって着水の衝撃を背中で受ける。

体が少し沈んでからミドガルに抱えられ、水面に引っ張り上げられる。


「やったよ〜、アイネちゃ〜ん。良く頑張ったね〜」


「撫でるな撫でるな、全身が痛いしお腹も空いた。兎に角拘束され続けて身も心もくたくただ」


雑に岸まで引き上げられると、遅れて湖の水面から女の姿のロキが顔を出す。

それを見たミドガルは私を背の後ろに隠して、ロキにミョルニルを向ける。


にこにこ笑って陸に上がったロキは、全く濡れていない体を地面に横たわらせる。

ゴロゴロと草の上を転がるロキに、ミドガルは苛立ちを隠せないでいる。


「あ、百鬼将くんはここに辿り着けないよ。迷宮にしておいたからね」


「そもそも何で人間に神器なんかを渡してるのですか、それも姿を変える最悪の剣であるレーヴァテインを」


「僕に言われてもな〜、シンマラ君が渡したとしか言えないよ〜。それかあの人が倒されたか〜」


「回収して下さい」


「嫌だよ〜、今回はアイネをもとの姿に戻す為に来たんだし〜。力も制限されてたから少しも出なかっただろうね〜、ざまーみろ」


ロキの指がパチンと鳴らされると、小さかった体が元通りになり、尻尾が時間を掛けずに元に戻る。


「やっと戻ったか、してジャンヌとアリスは?」


「あの街で待ってます、クライネちゃんを助けに行きましょう」


「そうだな、礼を言うロキ。だがあまり邪魔をしてくれるな」


「分かってるよ〜、気を付けてね〜」


霧のように消えたロキを見送ると、湖面が盛り上がって隠れていたドラゴンが姿を現す。

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