美しい夢の終わり

謎の騎士に敗北してからどれ程の時が経っただろうか。

薄暗い牢に投獄されてから、ずっと同じ景色ばかりを見ている。

薄暗いからか視界からは色が消え、見るもの全てが灰色に見える。


大袈裟に拘束された両腕を動かすと、ジャラジャラと鉄の揺れる音がする。

その音を聞いて看守が持っていた槍を私に向け、目を細めて暗い中、炎に照らされてかすかに映る私の顔を確認する。


どうやら今の私は人の姿になっているらしく、この姿ではそれ程恐怖心を煽らないらしい。

目を細めている看守は私が大人しいのを確認すると、牢に背を向けてどこかに歩いていく。


その看守と挨拶を交わして歩いて来た代わりの看守も、前の看守と同じ様に私に背を向けて牢の前に立つ。

先ほどと違った点と言えば、ビシッと立っていた看守が突然くるりと回転し、固く閉ざされた牢の鍵を殴って壊す。


「アイネちゃ〜ん、たぁーっすけに来たよ〜!」


にこにこしながら牢に入ってくるミドガルは、何故か他人の家に上がる様に丁寧に牢の扉を閉める。


「その声はミドガルか、すまない助かる」


「ここの監視ゆるゆるなのね〜」


「おぬしの頭みたいにな」


「助けに来てあげたのに酷いよ〜」


そう言いながらミョルニルを手の中に落としたヨルムは大きく振りかぶり、私の手首に繋がる鎖目掛けて振り下ろす。

ひとつひとつが私の体よりも太い鎖が容易く断ち切られ、既に感覚が無くなった左腕が開放される。


「まず足からしてくれぬか、このまま行くと顔から行くであろう」


「え? そ〜れを見に来たんだよ〜」


笑顔でミョルニルを振り下ろしたミドガルは、左足の鎖を断ち切って一息つく。

地面に座り込み、街で買ってきたであろうお茶を飲んで、ほっこりとした時間をひとりで過ごす。


「ほゎぁ〜」


「ほゎぁではない、早くこの頭の悪いくらい太い鎖を斬れ」


「え〜、鑑賞も悪くないと思って〜。あ、暑いなら脱がせるよ〜」


「私がやる、ミョルニルを返せ」


「えぇ〜恥ずかしいよ〜、間接握手になっちゃうよ〜。アイネちゃんのえっち〜」


「大した事ではなかろう、そんなもので恥ずかしがるやつは初めて見る」


漸く飲み終わったお茶が入っていた陶器を置いて、再びミョルニルを構えて残りひとつの鎖も断ち切る。

だが両手両足が自由になったのは良いが、全身に力が入らず立ち上がる事が出来ない。


「さあ運ぶんだミドガル」


「足を持った方がお好みか〜、脇の下を持った方がお好みか〜、私が抱き抱えるのどれがお好み〜?」


「……嫌がらせだなここまで来ると。三つ目だ、さぁ早く運べ」


「んも〜、本当に私の事が好きね〜。相思相愛運命共同体〜」


唯一痛くない運ばれ方を選んで牢から出ると周りには巨大な塔がいくつも立っていて、その中心に塔よりも大きな城がそびえ立っていた。

更に自分が投獄されていた塔が全ての塔の中心らしく、等間隔にこの塔を囲む様にそびえ立っていた。

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