あの夏に起きた出来事

@tabizo

怪談大会

今年の夏、気の合う仲間たちが集まってにぎやかにサマーパーティーを開いた。

流行に乗っかってグランピングというのを体験しようということになり、施設を予約した。

グランピングとは、風呂・トイレ・空調設備、ゆったり座れるソファ、ベッドなどを揃え、ものによってはテレビや冷蔵庫など豪華な設備がしつらえられた、キャンプの醍醐味とホテル並の快適な過ごし方を両立させる新しいキャンプスタイルと言ったところか。

夕食のバーベキューも盛り上がり、日もすっかり暮れて夜の闇が私たちを包み込む。

ふいに誰かが言い出して怪談話をすることになった。一人一話ずつ、実話でも作り話でもいいから怖い話をする。結構リアルな話が出て盛り上がってきたところで私の番になった。

「怖い話とか苦手やから、あんまり知らんからなぁ。一応、最初に言うとくわ、この話はフィクションやからな」

みんな黙って私の話に耳を傾けている。どうも入り方を間違えたようだ。ハードルを下げようとして言った言葉がかえって皆を期待させる結果になってしまった。

私は咳払いをひとつして話はじめた―


アイツどうしてるかなぁ…。

あれは中学生の頃のとある暑い夏の日の出来事だった。

昔、いろんな都市伝説が流行ったと思う。『口裂け女』や『トイレの花子さん』など瞬く間に広がってみんなを恐怖に陥れた話があった。その中には『こっくりさん』というのもあった。

記憶がうろ覚えなので間違ってる部分もあるかも知れないが、紙に鳥居や五十音のひらがなと数字と“はい”、“いいえ”というのを書いて10円玉を置く。みんなで人差し指で10円玉を押え、こっくりさんという霊みたいなものを呼び出して質問をすると、答えのところに10円玉が動くというもの。ただし、お帰り下さいと言って“はい”と帰ってくれない場合、祟られたり、恐ろしいことが起こると言われていた。クラスでも一時期、放課後にやるのが流行ったが、そのうち誰かがケガをしたり、病気になったらこれの祟りのせいだという噂が出てからはやらなくなっていた。


私はこういうものは信じていなかったので誰かが動かしてるか、何かの心理状態が作用して条件反射的に動くこともあるんだろうと思っていた。決して動物の霊だかなんだか不思議な存在が降りてきて10円玉を動かしてるとは信じていなかった。事実、信じていない者ばかりでやった時は10円玉はピクリとも動かなかった。同じような思いでいたのは私だけではなかった。

クラスの番長格A君もそのひとりだった。彼によってこっくりさんはまた再開された。

ただ噂を信じてビビる者が多かったのでA君は参加させる者を指名し、無理やり参加させられるという形で行われていた。体格も大きく腕力に物を言わせるA君に誰も逆らえなかった。毎回A君から指名される者のひとりにB君がいた。彼は小柄で気が弱く、普段から絶好のいじめの対象となっていた。B君には何人か仲の良い友達がいたがA君が怖くて何も言えない状態だった。A君の横暴には嫌気がさしながらも、私も含めみんな逆らう勇気がなくて、その様子を他の生徒は見守るだけった。今日も一通り質問をしてA君は満足したのか終わりになった。いつもはこれで解散となるのだがその日は違っていた。

「もう一回やろう!」

寡黙なB君がA君の肩を掴み、言ったのだ。まわりの生徒たちはざわめいた。

「うるせいな、離せ!」

A君は手荒く振りほどく。

「ねぇ、もう一回やろう!」

再びB君がA君の肩を掴み言う。見守るみんなは騒然としていた。

今、信じられないことが起きてる。あの何をされても抵抗せず言いなりだった大人しいB君がこのような行動に出るなんて。

「しつけーぞ、この野郎、いい加減しないと殴り飛ばすぞ!おおっ?」

A君は振りほどきながら鬼の形相で凄む。

B君はそれに臆することなく再び肩を掴もうとする。

「ね、もう一回やろ?」

あきらかに様子がおかしい。<もしかして彼に何かが憑依した?>取り巻きのみんなの頭にそのことがよぎり、恐怖を覚えた。

「ねぇ、もう一回やろ?」

B君の手を振りほどきにながらA君も同じ恐怖にかられたらしい。

「離せよ!、気味悪いやつだなぁ。もう相手にしてられん…」

そう言って逃げるように去っていった。呆然とその様子を眺める取り巻きの生徒たち。

B君は自分のカバンを取ると悠然と教室を出て行った。

その際に彼は私に近づき、耳元で小さな声で囁いた。

「君の言う通りだったよ。ありがとう」


実はA君のB君に対するいじめに我慢がならなくなった私はB君にある作戦を授けた。

B君とはそれほど親しくはしてなかったが、A君の日頃の横暴を許せなかった私はある計画を立て、B君に持ちかけたのだ。

私もA君は怖い、だから直接止めることができないが今流行ってるアレなら、恐怖心を利用してA君にひと泡吹かせることができるかも知れない。それでA君のいじめが減るなら万々歳だ。B君は内心いじめに相当まいっていたらしく私の作戦にのってきた。

「いいか、どれだけ怒鳴られも絶対ビビっちゃ駄目だ。死ぬ気で何度も繰り返すんだ」

B君はうなづいた。その目には強い意志が感じられた。

そして当日。B君はうまくやった。作戦は大成功だった。

私はダメ押しをするために翌日もA君にむかって、こっくりさんをやろうと言うことを指示した。B君は実行した。

効果はてきめんだった。その日からA君はB君を気味悪がって避けるようになり、いじめはなくなった。私は内心ガッツポーズをした。

ただ、誤算があった。クラスのみんながB君を避けるようになり、B君と仲が良かった友達までが距離を置くようになった。B君は完全にクラスから孤立してしまった。

B君は今の状況について私を恨んでいるだろうか。B君は私に対する配慮のためかクラス内では声をかけてこなかった。それはとても助かったが、かえって私の罪悪感を強くさせていた。

放課後、帰り道。後ろから駆け寄る足音。振り向くとB君だった。

「君のお蔭だよ、ありがとう…」

彼は笑顔で言ったが、私にはその笑顔が怖った。

「良かったな…あの、ちょっと今日は用事があるから急ぐんでー」

私は彼から逃げるように去った。

次の日も帰り道。後ろから足音。B君だった。

「君のお蔭だよ、ありがとう…」

まだ同じセリフで笑うB君。逃げ去る私。

そういうことが5日続き、私は転校した。


「―という話やけど、あんまり怖くないよな…」

私は頭をかきながら言った。

話が終わる頃にはみんな酔っぱらっていてあまり聞いていない様子だった。

その時、急に闇の中から声がしたような気がした。

それは“君のお蔭だよ…”ともとれる声だった―


                                        完

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