彼氏の性格を治してー中編①

白「さて、これから

俺は織田健二に会う。

お前にはそれまで

助手をしてもらう」


晴香「え?私は客……む!?」


口を防がれて文句を止められた。


白「面識がある者がいた方が

やりやすい。それにこの金額

では"術"以上の手間は御免だ。

それから俺の事は白と呼べ」


晴香「…………」


 口を防がれたまま、うなづく。

まぁいいと思えた。

成功して欲しいのは私の方だ。


この非合法の病院が失敗した

時にお金を返してくれる

保証はない。


 白医院の噂は裏路地に潜む

噂の中ではかなり有名だ。


外科でも内科でもない、

催眠科の病院。


催眠術の類で性格を

"治し"てしまうという

それは医学的にも道徳的にも

まだ合法とはされない行為

だけど、私の様にそれを求める

声は少なからずある。


久しぶりに携帯を見る。


健二【本当にごめん。焦ってた】


健二【先輩がみんなしたことが

あるって聞いて、慌てたんだ。

ごめん】


健二【絶対何もしないから、会って話せないか?】


未読10数件、

そんな内容が続いているのを

見て虫唾が走る。


晴香「したのは……

あんたじゃん!!」


 私は今の彼をもう好きでは

いられない。だから……

"治す"んだ。昔の関係に、

昔の彼に……


晴香【今夜、私の家に来て。

両親は、いないから】


メールを一通送り、

携帯を閉じた。


お互い様だと思った。

騙している罪悪感は欠片もない。


晴香「……………………………」


 夜、インターホンがなる。

気まずそうに現れた健二に

いつもの様にコーヒーを、


自分のココアを用意して

机を挟んで座る。

いつもと違うのはこの沈黙、


肩を並べず座った距離、


そして、


コーヒーの中に潜む不純物。


ガタン!


机を揺らし、

健二が勢いよく土下座した。


健二「どうかしてた!!

取り返しがつかない事だと

思う……本当に……ごめん!!」


 少しだけ驚いた。

球児として軌道に乗ってからは

プライドの高い印象だった

彼が、恋人とはいえ……


罪悪感があるとはいえ、

女性に土下座をするということ

は私の予想には無かった。


数滴、溢れたコーヒーを

横目に私は小さく、動揺した。

そして、目を閉じて言った。


晴香「困るよ……

そんな事されたら怒れない

じゃん!!」


健二「怒らせるために来たん

じゃない!やり直したいから

来たんだ」


健二「もう、あんな事しない」

晴香「当たり前でしょ!?」


 大声で言い返した。

初めて、こんな本気で声を

張り上げたと思う。自分も、

自分を昔から知る健二も

少し驚く。


でも、話はそこから大きく

変わっていく。


健二「あぁ、当たり前だ!

晴香との時間、もっと大切に

したい。野球、辞めてもいい」


晴香「!?」


 健二が野球を辞める。

その言葉で私の中は

ぐちゃぐちゃになった。


健二が野球より私を選んだ

嬉しさと、健二の大切なものを

奪おうとしている事への戸惑い。


最低の思い出から改心

してくれた、そんな成長をした

健二と作る未来への期待も

脳裏に浮かんだ。


健二「俺……いつの間にか

逆になってた。晴香喜ばせたくて野球やってたのに、

野球ばっか一番になってた」


晴香「……別に……そんな事

して欲しい訳じゃないよ」


晴香「健二が……野球、頑張ってたのずっと見てたのよ?」


健二「……でも、それしか俺、

誠意の見せようがないし、

晴香の方が大切なのマジだから」

晴香「……!!」


困った様に笑った健二は

コーヒーを手に取り、

口をつけた。


晴香「……健二、こっち、

来ていいよ。やっぱりこの

距離落ち着かないから」


健二「!……ありがとう……

それに本当にごめん」


晴香「謝りすぎ。

許せないけど……それも

聞きたくない」


健二「うん……」


 肩を寄せて、しばらくは

そんな話が繰り返された。

触れたところから暖かいものが

伝わる。


声を出す代わりに飲み物を

口にする事が増えていく。


お互い口数は減っていき、

時計の針のカチカチという

音が大きく感じられた頃、


安心した子供の様な顔で

健二は眠っていた。


晴香「……………………………」


 私は健二を見て、

少し迷っていた。


それを察した様に

その声は聞こえた。


白「本当にやるか?」

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