催眠科の医師

不適合作家エコー

彼氏の性格を治してー前編①

数日前のことだ。

私は彼にそれを依頼した。


「彼氏の"性格"を"治して"下さい」


都心に溢れた高層ビル。

賑やかな遊戯施設に、華やかな

購買店。香り豊かな飲食店が

ひしめく場所……


でも、それは表の顔に過ぎない。


 路地を一つ曲がればそこは

大きな闇の世界がある。


眩い高層ビル達が生み出す、

深くて大きな闇の影。


闇の中に潜む多様で真偽さえ

分からない噂たちがある。


時折聞こえる銃声は犯罪組織の

集会所があるからだとか、


化け物に襲われた様な類の

都市伝説は毎日の様に嘯かれる。


胡散臭いものから現実的な

危険まで闇から聞こえる噂は

後を絶たないけれど、


闇の中に向かう。

それは相当の勇気が必要な

行為で、つまりはそれほど

切迫した人が立つ最終手段

なのだと思う。


優「ねぇ!晴香?聞いてる」


晴香「え!?あ、ごめん……ちょっとぼーっとしてた」


優「晴香……最近そういうの多いよ?悩み事だったらウチら頼れー」


晴香「た、大したことじゃないよ」


 私、大野晴香おおのはるかは親友の柏木優かしわぎゆうに嘘をついた。


親友にも言えない悩み事、

親友にさえ軽蔑されそうな

悩み事が私にはあったのです。


優「晴香のヤツ……

結構まいってる。

相談すればいいのに……

バカ晴香」


未央「晴ちゃんにだって

言えない悩みくらいあるよ。

それに、ウチは羨ましいけど

な……晴ちゃんの家も成績も、

それに……」


 私の抜けた後に優と未央が話す

声が聞こえて、思わず歩を

緩めた。


未央「あんなカッコええ

彼氏までおって」


 未央はグランドを見る。

グランドには大きな垂れ幕に【祝・甲子園】の文字。


私の幼馴染であり彼氏、

織田健二おだけんじは高校2年にして、

この野球強豪校の

エースピッチャーをしている。

それは彼の誇りであり、

私にとっても鼻の高いものの

はずだった。


健二「僕はプロ野球選手になるから、晴香ちゃんは僕のお嫁さんね」


 今思い返すと恥ずかしいけれど、小学生の頃の健二が

言ってくれたその言葉は

今も私の大事な宝物だ。


健二「晴香……今日の試合に勝ったら伝えたい事がある……」


 中学になった最初の試合。

私たちが付き合った日は

朝からそんな事を言ったくせに

試合で大暴投の大負け。


バツが悪そうに告白した

ちょっとマヌケな彼氏の頬に

私はファーストキスをした。


きっとこれは一生忘れない

思い出として私の心のアルバム

に輝くはずだった。


 はずだったのに、

その思い出の傍に、

どうして……。


晴香「こんな思い出いらないのに……」


 いらない思い出が埋まり込み、

それが綺麗な思い出まで

腐らせていく様な不快感が

日に日に私の気持ちを

落としていった。

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