カトリーヌとリュシアン2
クラブ活動の題材としてはズレてしまったが、確かに面白いかもしれない。もともと僕は、気分転換で来たのだし、ベアトリーチェたちには悪いけれど、カトリーヌに付き合ってもいい気がしてきた。
「じゃあ、僕行ってくるよ。少し抜けるね」
カトリーヌが所属するクラブは、教室の前方の方に陣取っているので、僕はそちらに移動しようとした。どちらが先と言うことはないが、僕の魔法陣を描いてもらうにしろ、カトリーヌ作の巻物を発動実験するにしろ、ベアトリーチェのクラブ活動には掠りもしないので、カトリーヌのクラブと合流するのが自然だと思ったのだ。
「何言ってるの、私たちも参加するわよ」
「その通りじゃ、妾たちの研究は発表期限があるというわけでなし、それにカトリーヌの写生のことは妾も気になっておったのじゃ。検証に付き合わぬ道理がない。もちろん、リュシアンのオリジナル魔法陣とやらにもな」
と、ニーナ、ベアトリーチェに加え、同意するように頷くカエデとアリスもノリノリだ。
エドガー、ダリル、ジャンの男子チームにしても、たまには息抜きがてら他のことをするのも悪くないと、いたって興味深々で、むしろワクワクを抑えきれない顔をしている。
というわけで、大人数で込み合っている前方の席へは移動できないので、カトリーヌのクラブメンバーに後ろへ移動してもらうことにした。そして、そのまま軽く顔合わせとなる。
飽くまで臨時なので、ここではリーダー格のみの紹介だった。
「リーダーのカヴィーだ。度々、こちらのカトリーヌがちょっかいをかけてすまない。彼女の魔法陣検証に付き合ってくれるとのことで、感謝しているよ」
彼は帝国生まれの人間で、こちらの学校は高等部からだということだ。それまでは、帝国の貴族院が運営している学問所に行っていたようだ。このクラブ最年長の十八歳。貴族特有の鷹揚とした物言いや仕草はあるが、とても自然体で偉ぶっているような印象を与えなかった。
他に、同じく最年長で副リーダーのダノア、彼女の後ろに隠れているのは妹のセーラ、十二歳だ。余計な情報だが、この二人はいかにもエルフ族の美人姉妹であった。輝く金髪に碧の目、セーラに至ってはまるで人形のように可愛い。そして他に、男女十数人を加えた大所帯である。
いままで比較的すいていた後方のテーブルは、彼らが臨時で置いた椅子でギュウギュウ状態だ。
いつもは静かに活動しているベアトリーチェのクラブは、いつのまにかワイワイとどこか楽し気な巨大なコロニーと化していた。
すると、周囲の嫉妬めいた雑音も心なしか大きくなった。
「下らないわね。仲間に入りたいのならそう言えばいいし、そうじゃないのなら勝手にやればいい。なにか言いたいことがあるのなら、聞くわよ!」
カトリーヌは腕を組み、高い所から見下ろすがごとく立ち上がった。確かにカトリーヌへ向けたであろう揶揄も含まれてはいたが、ほとんどがベアトリーチェと僕に向けられたものだったように思う。
陰口をたたいた方も「なぜ、カトリーヌが?!」と言った表情だ。どちらにしても、雑音はすっかり静まり返ったようだ。
「なんじゃ、いつもおぬしも参加しておろうに。今更、自分の事を言われたからとて……」
「……はあ!?」
ベアトリーチェは、相手にするなと言う意味で、ついでにいつもの意趣返しも込めてそう言ったのだが、それにカトリーヌは心外だとばかりに振り向いた。
「言っとくけど、私はあんな無駄なことしないわよ。だって、気に入らないことがあれば、遠慮なく面と向かって言っちゃうもの。だいたい、そんなに暇じゃないわよ、私」
もっとも、わざわざやめさせるほどお人よしじゃないけど、と付け加える。
どうやら今回は、自分にも向けられたから、きっちりと相手をしただけのようだ。そして、やめさせたいのであればベアトリーチェが自分でけじめをつければいい、と辛辣に締めくくる。
ともかく、これまでカトリーヌを避けてきたベアトリーチェは、ここへきて初めてカトリーヌの性格を正しく知ることになったようだ。
総合すると、カトリーヌは悪い子ではなさそうだけど……少なくともベアトリーチェにとっては、結局、苦手なタイプなのだろう。さっきからずっと複雑そうな、難しい顔をしている。
「外野も静かになったし、本題に入りましょうよ」
さっそくカトリーヌが話を振ってきた。
「それで、どんな魔法陣なの?」
もちろんそれは、僕のオリジナル魔法陣のことだ。
どうやら、はるかに手間が少ないこっちの検証を、先にやってしまおうということになったようだ。僕の作った魔法陣を、ただ写生するだけだからね。
「これだよ」
フリーバッグから、一枚の巻物を出した。例の輪ゴムで留めたアレだ。中身は、初期に考えた、最も簡単な仕組みの瓢箪型魔法陣である。
これは、ただ単純にお湯を出す魔法。光魔法が入っていないので、飲料用ではないし魔水でもない。単純に、お風呂や洗濯用といった生活用水のお湯である。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます