母子の再会

「まあ、まあまあ……こっちに来れないって手紙をもらったばかりなのに、これは夢かしら」


 小屋に飛び込んだカエデの後を追って扉を開けると、カエデがアリソンさんに飛びついていた。

 アリソンさんの驚きようは、それはもう手に取るようにわかった。なにしろ、つい先日帰れないと手紙を送ってきた張本人が、こうしてたった今、腕の中に居るのだから。

 それでも娘に会えて嬉しくない母親はいない。アリソンさんは、カエデの帰郷とぼくとの再会を心から喜んでくれた。


「リュシアンのおかげで来ることが出来たのよ。ただいま、お母さん」

「おかえり、カエデ。いらっしゃいリュシアン君。そして、そちらのお嬢さんもいらっしゃい。何もない所だけど、歓迎するわね」


 アリソンさんは、いつかご馳走してくれたシチューを振る舞ってくれた。とにかく、美味しいので評判だ。

 カエデは、僕が魔界の塔で特別に研究していることや、今回の突然の訪問もその研究の成果なのだと、まるで自分のことのように嬉しそうに語った。


「世界を飛んじゃうリュシアン君だもの、何があっても不思議じゃないわね」


 カエデと同様にキラキラした目で、アリソンさんは疑うことなく僕の功績を讃えた。これ以上放っておくと、屋根よりも高く持ち上げられそうだったので、さっそく今回同行したニーナの紹介をした。


「まあ、綺麗なお嬢さんね。カエデに素敵なお友達が出来てうれしいわ」

 

 食事が終わると、カエデは嬉しそうに向こうでの学園都市のこと、こちらに戻ってからの魔界の夏休みと、学校の生活を思う存分話した。親元を離れて一年とちょっと、それこそカエデには母親に話すことが山ほどあっただろう。

 そんな親子水入らずを邪魔しないようにと、僕らは適当なところで切り上げて外へ出た。


「嬉しそうだったわね、カエデ」

「うん、こっちに来てからずっと気になってたから、本当によかったよ」


 湖沿いにある散策路を、二人並んでゆっくりと歩いた。


「もう少し行くと、リィブの恵みである清水の湧く岩場があるんだ」


 アリソンさんが水場として使っている場所だ。豊かな水源で、いつも滔々と清らかな水が湧いている。


「楽しみだわ、私もリィブ様に会えるかしら」

「あれ……?」

「どうしたの、リュシアン」

「ここ、のはずなんだけど……おかしいな枯れてる」


 リィブに何かあったんじゃないかと心配になって、ちょっと焦って岩場を覗き込むと、カラカラに乾いていた岩の隙間から、いきなり大量の水がどっと溢れてきた。


「わっわ! び、びっくりした!」


 危うくずぶ濡れになるところだったのを、ニーナに腕を引かれて事なきを得た。


「リュシアンよくきたの。あえてうれしい、たくさんかんげいするの」


 そして後方の湖から、あどけない少女の声が聞こえてきたのである。

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