レベルの基準2
――四百十
「うわ、リュシアンまためちゃくちゃ上がってるな!」
「スゲーな! レベルなんざ気にしたこたねぇが、これがスゲーってことだけはわかるぜ」
エドガーに続いて、ダリルが身を乗り出すように水晶を覗き込む。どうでもいいが、ダリルは驚くと語彙がほぼ「スゲー」に統一される。
いつの間にレベルアップしたのかすぐにピンと来なかったが、そういえば前にフロアボスなんかとも戦ったし、最近ではちまちまと冒険者のクエストなんかもやってるからかな。
「……驚いたわね、いろいろ聞いてたけど、さすがにこればびっくりね」
研究室の青年も、数字の表示された水晶を確認したり叩いたりしている。
壊れたテレビじゃあるまいし、叩いても変わらないと思うけどね……いや、今時はテレビ叩く人もいないか。
その後、スキルの鑑定に特化した巻物や、魔力量を測るための懐かしの巻物などを見学し、時には実際に試したりもした。
「レベルは、冒険者の強さのバロメーターだったり、モンスターの撃破数の指標であったりするけれど、今ではそれほど重要視されてはいないわ。なぜなら、読み取り方が偏っているからよ」
昔の偉人が、頑張って基準を作ってみたものの、あまり役に立たなかったというわけだ。
「リュシアン君のこの数値、たぶん全体の能力の上昇もあるけれど、話しを聞く限り、それよりもモンスターを倒したことによる急激な魔力の上昇によるものだと思うわ」
この世界では、戦闘力の大きさはほぼ魔力に左右される。
腕力や身体能力には、ある程度の肉体的な限界がある反面、魔力にはそれがない。身体が資本の剣士、闘士も、結局は魔力の強さが能力を引き上げる。
僕も無属性魔法の持ち主だからそれは身をもって理解している。
「レベルの基準は、主に魔力なのよ」
「……それでか、確かにリュシアンは魔力無尽蔵だからな」
エドガーがまるで自分のことのように胸を張っている。
無尽蔵じゃないと思うけど、確かに普通の人よりは多いかもしれない。でも、世の中には魔力量の多い人はいくらでもいるんじゃないだろうか。
「そしてもう一つ、モンスターの討伐実績。モンスターを倒すと、そのモンスターの魔力が僅かばかり結晶になって残るのは知っているわね?」
「魔石、ですね」
僕が答えると、ラムネットが頷く。
「魔石を落とさない魔物の方が多いけれど、倒された魔物の魔力が結晶化せずに、ほんの僅かだけど倒した人へ影響を残すといわれているの」
それはステータス上昇の恩恵だったり、魔力の上昇だったりするらしい。
しかも、倒された魔物は当然ながら
僕らは、話しながら研究所を出てワープ陣があるロビーまで戻って来た。
「そんなわけで、人のレベルやスキルはそれほど正確には出ないのよ。だからベアトリーチェには、あまり気にしないようには言ったんだけどね」
まあ……でも、ベアトリーチェの気持ちはわかる。どうしたって気にするよね。
僕の顔にそう書いてあったのか、ラムネットはちょっとだけ苦笑して頷いた。彼女にしてみても、ベアトリーチェの不安を取り除こうとして逆効果になったのだから、少なからぬ悔悟の念があるのだろう。
「あ、そうだ。リュシアン君に一つだけ忠告」
引き続き他の階層へ向かおうとしたラムネットは、ふいに足を止めて振り向いた。
「リュシアン君は、レベルだけで見たら冒険者の中でもとんでもない上位にいるけれど、それは人より高い魔力や魔力量、そして異常な討伐数によって偏った測定がされたためだと考えられるわ」
僕は苦笑しつつも、素直に頷いた。なにしろ討伐数に至っては、超高レベル階層でのチョビとの共闘による無双で得られたものが含まれているからだ。
当然ながらレベルが高いからといって無敵なわけではない。
もともと僕の人並み外れた頑丈さは、全ては魔力頼みであるのは嫌と言うほどわかっている。ひとたび魔力を失えば、途端にただの小さな身体一つしか持ちえない子供でしかない。
実際に、危機的状況で魔法陣を展開させ、無属性が一時的に切れた際には、モンスターにやられた怪我で死にかけたこともあったし……。
「まあな、コイツ小さい頃は身体が弱かったって言ってたし、それに……いや、そうだよな。無敵ってわけじゃないよな、当然」
エドガーは言葉を濁したが、言いたかったことはわかる。
致死量の毒を飲めば死ぬし、もちろん普通に病にもかかる。別に不死身と言うわけではないのである。
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