レベルの基準

「実は以前、ラムネットさんの紹介で鑑定してもらったんですよ」


 次の日、男子グループを連れて塔に登った際、昨日のベアトリーチェのことをジャンに話すと、少し気まずそうに苦笑して答えた。

 ロビーにある階層移動用のワープ陣を使って、僕達は六階層に到着した。

 この階層は階段で上がれる場所はなく、いくつかの階層へ行くワープ陣が存在するだけだ。希望した研究所へいくには、まずこの六階層を経由していかなければならない。しかも、必ずしも順番に上がっていけるわけではなく、ここから行ける十二階層に至っては、そこから階段で移動できる幾つかの階層以外には行けない、つまり行き止まりの区画らしい。

 ……果たして、ここの道順を正しく把握するのにどのくらいかかるのか不安になってきた。


「知っているとは思うけど、人類と定義される種族全般の鑑定は、一般的に難しい上に不安定なの」


 嘘か本当か、人類は神の箱庭と呼ばれるこの世界に、気まぐれに放り込まれた異邦人だとされている。だから、世界記憶層アカシックレコードにコンタクトする鑑定では、読み取ることが困難だというのだ。


「このフロアーには、主に魔物のレベルやスキルの研究、また人の鑑定についても追及している機関がいろいろ入ってるわ」

「そういえば俺たちも以前したな、レベル鑑定」


 そう答えたのはエドガーだ。ダリルも後になって調べて貰ったので経験があるはずだ。

 そう、かつて僕のレベルがとんでもなかったアレだ。


「基本的に人を鑑定する場合、たとえ鑑定のスキルを持っていたとしても、補助的に特定の魔道具を使う必要があるの」


 そういえば、ギルドで調べた時も水晶を使っていたし、魔法紙を使ったりもしていた。

 幼い頃に行った鑑定も、巻物を使って魔力量を測定するものだったし、加えて属性を調べるのには魔石の反応を参考にしてたっけ。


「スキルや魔力といったステータスに基準を作って、それを基にレベルを加算していくというシステムを作ったのよ。それを算出するためのスケールとなるのが、魔力に反応する試験紙や、水晶玉というわけ」


 魔物などのステータスを参考にしてレベルの基準設定が決められたらしく、比較的スキルの有無や、魔力の充実さなどが重視されたらしい。


「スキルなどの名称も、存在する魔物や魔獣のものを想定して読み取っているので、いわゆるユニークに分類される種族、血統スキルは、表示されないことも多いのよ……」


 話しの流れからすると、ベアトリーチェには「飛翔」のスキルが表示されなかったようだ。今までの説明だと鑑定そのものが怪しいと思えるけど、飛べないと悩んでいた少女にとってはショックだったに違いない。

 階段を一つ上がった十三階層は、フロアーのほとんどを占める本棚に押しつぶされそうな狭い空間だった。ところどころに巻物や魔道具が積み上げられ、一体どれが使えるものかもわからない。

 迷路のように本棚の細道を、ラムネットの案内で進んでいく。

 突き当りには大きな机が置いてあり、そこにも本が山積みになってた。その隙間から分厚い本を読みふけっている青年の姿が垣間見えた。年の頃は三十路を行ったか行かないかくらいにみえる。ぼさぼさの黒い髪で白衣姿、短く不揃いの無精ひげがが特徴の男だった。

 ラムネットが短く挨拶すると、男は少し面倒臭そうではあったが話を聞いた後、無言でゴソゴソと後ろの箱の中を物色し始めた。

 そして、大きな水晶玉を取り出した。

 これには見覚えがある。まさに以前、レベルを鑑定する時に使ったアイテムだ。ともあれ実際やってみろ、ということだろう。

 ――結果は、エドガー、ダリルともそれぞれ平均五~八程度上がっていた。

 僕はというと、できれば遠慮したかたったけれどエドガー達に押し切られ、しぶしぶ水晶に手を翳することになった。

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