ジュドの情報

※※※


「なるほどな……というか、それマジの話か。いや、まあアレだな。人払いしたのもうなずけるな」


 説明を受けたジュドは、なんだか納得したようなしてないような顔で、まるで大きな熊が背中を丸くして唸っているようだった。


「ジュドさんには申し訳ないけれど、この件は個人で依頼を受けて欲しいんだ。もちろん他の情報提供は、そちらのパーティという括りで依頼を受けてくださって構いません」


「ああ、それだけなら俺一人でいけるしな、わかった。雇われた以上は秘密は守るし、やることはやるぜ」


 バレたら「僕が」面倒くさいことになる、くらいではあるが、それでも進んで宣伝してまわる必要はない。要は、前にも使ったワープの巻物関連のことである。

 このダンジョンは、攻略難易度からすれば中級なのにかなりの階層があり、モンスター出現率も多く、それに伴うドロップや素材集め、豊富な鉱石など、なかなか面白そうな要素が詰まっている。本来なら、嬉々として一階層からじっくりと攻略するところだが、何しろ今回はわりと急を要している。

 かなりズルではあるが、一気に目的地まで行ってしまおうと考えたのだ。

 そこで重要になるのが、前にも使ったことがあるワープの魔法陣である。もともとワープの難点は、目的の場所へマーカーがないと移動できないということだ。つまり、行ったことがない場所には行けないのである。

 通常のダンジョンは、入り口脇やその付近に、内部に設置されたすべてのワープ陣と紐づけされたマーカーが設置してある。ダンジョン内部側からワープを潜ると、個人が設定されて、その後は自由に行き来が出来るというわけだ。

 僕のワープ陣はこれよりも単純で、陣から陣へという図式だ。面倒な設定はないものの、結局のところ両地点に魔法陣がないとワープは不可能なのである。

 ということで、五十階手前のワープ陣に飛べるジュドに、対の魔法陣を置いて来てもらうことにしたのだ。

 ワープの魔法陣は、相互発動なのでこっちが発動すれば向こうも自動的に発動する仕掛で、ただセットする分には魔力は一切いらない。

 ちなみに、あちこちに置いておけば便利なのでは? と思うかもしれないが、紙製、しかも僕専用の耐久性もなく劣化も早いという欠点がある巻物なので、現実的にはその都度、準備する必要がある。


「まあ、俺にはよくわからんが、とにかくワープ陣の近くに置いてくりゃいいんだな」

「お願いします。あの巻物は僕にしか反応しませんので、安心して開いて頂いて大丈夫です」


 詳しい話は、またその時にということでこの話はまとまった。


「あとはあれか、涙の石……つか、その雫だよな? 俺たちも小銭稼ぎにいくつか採取したが、保存の仕方がなってないっていつもクライアントに怒られるし、自分で採取したほうがいいだろうな」


 光の鉱石同様、その石は持ち帰ってもただの乾いた鉱石でしかない。この雫は、薬剤師には高く売れるらしく、ある程度の階層まで行ける冒険者たちには割のいい金策の一つである。けれど、どうしても冒険者に専門家が少ないため、なかなか良質なものが手に入らないのが悩みの種らしい。

 そのためジュドは、鉱石のいい発掘場所をいくつか教えてくれた。


「すみません、こういうのは本来なら秘密にするんですよね? 助かります」

「いやいや、俺たちが採取してもたいして金にならないし、文句ばっか言われるしよ」


 彼らはどう見ても素材専門の冒険者ではないし、普段は安定性のある鉱石を採取するのが関の山とのことだった。


「さて、最後にヘルサラマンダーだな」


 ここでジュドは僕を指差し「坊ちゃんは、運がいいぜ」と、片目をつぶってみせた。またぼっちゃん呼びになってるし……ピエール、今度会ったらデコピン確定。


「あいつの足元に階段があることからも、階層ボスだと思う。で、俺たちはここ数日、あいつを倒しあぐねているわけだが、それは倒せないんじゃなくて逆鱗が惜しかったからだ。知ってっか? あの素材、めちゃくちゃ高価なんだぜ」


 僕がもちろん、と頷くとジュドはちょっと悔し気に続けた。


「なにしろ、レア素材である逆鱗が、唯一の弱点なんだから性質が悪い。見えてるのに攻撃できないし、下手に仕留めそこなうと大暴れしてすべてが台無しになる。この話が来るのがあと一日遅かったら、アイテムを諦めて倒しちまってたところだったんだぜ」


 本当に危ない所だった。階層ボスは、要はダンジョンの魔力だまりに、その辺りで一番強いモンスターが居座るというだけで、ゲームのように必ずしも再びモンスターが湧くとは限らないのだ。

 必要な情報は、これでほぼ聞いたと思う。ユアン先生情報では、今現在も五十階に到達した他のパーティもいないということなので、邪魔が入る心配もなさそうである。

 このダンジョンのランクが中級だった為、いわゆるA級、S級などの上級パーティは歯牙にもかけなかったようだ。ちなみにジュドさん個人のランクはA級で、お仲間の方々はB級とのことだ。なので、パーティランクはBクラスとのことである。

 まあ、僕達はオールFだけどね。

 ジュドのチームには、順序が逆になったが情報提供の依頼を正式にして、同時に完了ということで冒険者ギルドを通して手続きを済ませた。ジュドは別にそこまでしなくていいと言ったが、彼の仲間の手前もあるし、こういうのはキチンとしておいた方がいいのだ。

  

 そして、翌日――。

 まだ日が昇る前、僕とニーナ、ダリルとカエデは、約束していたジュドとダンジョン前に集合していた。

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