ダンジョンと再会と

※※※


 数日後、僕達は学園からほど近いダンジョンへと向かっていた。以前、ダンジョン実習に使われた初級ダンジョンであるが、今では未踏破中級ダンジョンと格付けがされている。

 当時、難敵だった不定形モンスターが多い階層があるが、始めから対策をしていけばスライムは基本的に雑魚である。しかもボス階層がまばらにしかなく、最速パーティはあっという間に五十階層まで踏破した。その点をもって、中級と位置付けられたのである。

 不定形、虫、小型獣系が多いダンジョンということで、攻略情報が出るにしたがって、もっぱら魔法使いがもてはやされた。ボス対策のために直接攻撃系も一人はいれているが、ほぼ魔法使いでパーティを結成しているようだ。

 今回は、僕とニーナの他には、ダリルとカエデのみの参加である。ダリルは従魔を持っているので、ダンジョン探索には何かと助かるし、二人とも冒険者なので特別休暇を取りやすい利点があるのだ。

 ちなみに、ノルは最近進化して小鼠から跳鼠になった。大きさは変わらなかったが、足の形が少し変わり、ハイムーブとジャンプなど移動面でスキルアップしていた。ハイムーブを覚える個体は、後にムーブ系のレアスキルも覚えるらしく、ダリルが鼻高々である。

 ということで、都合のつかなかったエドガーとアリスは今回お留守番だ。ニーナは冒険者ではないので、僕が雇った助っ人という形となった。


 このダンジョンは、キンバリー辺境伯の陪臣が運営管理しているが、ダンジョンへの出入り人数、ましてや人物を逐一上に報告しているはずもなく、直接の管理は冒険者ギルドに委託して行っている。

 学園長には、この冒険者ギルドの方への融通を頼んだのである。

 冒険者ランクは低いけれど、確かな実力者ばかりなので入場を認めてくれ、と一筆したためてもらったのだ。


 今回の目的だが、一つは涙の鉱石。

 これは鉱石の名前ではなく、通称だ。水気がなくても濡れており、不思議なことにたえまなく水滴が滴っている。石そのものというより、その雫を採取して使うのだ。これは五十階以上に行けさえすれば、手に入れられる可能性は高い。

 もう一つの素材は、ヘルサラマンダーの逆鱗。

 レッドサラマンダーのレア種で、強さも数倍だが、なにより硬い鱗を持ち、倒すのが困難とされているモンスターだ。なにしろ素材の逆鱗こそが、唯一の弱点で、倒す時に傷つけてしまうことが多く、その素材は激レアとされている。


「そのモンスターの目撃証言があったのね?」

「うん、例の五十階到達パーティが確認したらしい。おそらくその辺りの主……中ボスだろうって」

「聞くだけで厄介そうだな。魔法で、ガッと黒こげにしてもダメなのか?」

「そりゃダメでしょ、一番脆いって言ってんだから。まっさきに黒焦げなんじゃないの?」


 ダリルの質問を、カエデが一刀両断にしている。


「読んで字のごとくなんだけど、逆鱗は弱点かつ、怒髪天のスイッチらしく、下手につつくと自分で大暴れして、大事な素材が台無しになるとも言ってた」

 

 さらに面倒くさい情報を教えると、全員が大きなため息を付いた。

 ダンジョンの入り口付近までくると、前方にはダンジョンに入るために申請する冒険者などがたむろしていた。また、多くの装備、雑貨、飲食などのお店の露天が並んでおり、たくさんの人で賑わっている。


「あ、いたいた。ユアン先生!」


 そんな人混みの中からようやく見つけた先生に声を掛けたが、その隣にひときわ大きな人物がいることに気が付いて、僕は驚きを隠せなかった。


「……え?! ジュドさん?」

「よう、ぼっちゃん。やっぱりそうだったか、名前を聞いてもしやと思ったが大正解だったな」

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