薬草園での再会
エドガーやニーナ達は三日間の滞在予定だった。その後の移動や、訪問予定も詰まっているので、少し短めなのは仕方がない。
初日は、のんびりしつつもみんなで料理を作ろうということになった。朝食はリュシアンの家族と一緒に、シェフの料理を食べたけれど、ニーナ達が滞在のお礼にとアフタヌーンティーを振る舞いたいと言い出したからだ。
ニーナやアリスも、今ではパンを焼いたり、小動物の解体くらいは出来るようになっている。
ここ数年で、解体はダリル、料理はリュシアン、みたいな感じになっていたが、ニーナ達だって遊んでいたわけではない。
リュシアン特製の、魔力で起動する簡易竈の扱いや、多少の料理の手順、肉や野菜の扱いなど、その辺の適当に食事を済ましている冒険者なんかよりは、よっぽど器用にこなすようになっていたのだ。
また、リュシアンもダリルに解体を教えてもらい、これも料理と同じくらいに得意になっている。
ちなみにエドガーはもっぱら魔力担当で、あまり料理や解体が得意という訳ではないが、リュシアンに影響を受けて生活魔法をかなり覚えていた。攻撃魔法至上主義で、それ以外は魔法ではないとまで言っていたのが嘘のようである。
火魔法が使えないので、お湯を作ったりは出来ないけれど、光が使えることで清潔な水がいつでもどこでも出せるのが大きい。風魔法と合わせれば、水場のないキャンプ地での食器洗いや洗濯、寒くなければ体の洗浄も可能だ。
ショボイなどと侮ってはいけない、長丁場とされるダンジョン攻略に於いて、これ以上便利な魔法もないのだ。
「うわぁ、ひろーい」
「前回はあまりゆっくり見ることもなかったものね、本当に気持ちいいわね」
フレッシュハーブを摘むために、リュシアンはニーナ達を連れて屋敷の裏の薬草園へやって来た。
屋敷の中を通って、厨を経由すると、人がひとり通れるだけの小さな裏口がある。普段は使用人たちが使う動線で、リュシアンたち家族には専用の裏口があるのだが、こちらの方が近道だし、ティータイム用の軽食を作る厨房を見たかったので、見学がてらこちらから外へ出たのだ。
料理人たちが使いやすいようにと、扉を出るとすぐに食用に使うハーブ類や野菜などが植えられている場所へ出ることが出来る。
奥にはガラスで覆われたハウスがいくつかあり、野外にも薬などに使うハーブ類が広がっていた。更に奥へ行くと、ずっと広がる緑の森林が続いており、その先には魔境と呼ばれる、遥か昔に巨大な竜が眠った姿が峰となったなどの伝承が残る霊峰が聳えていた。
すこし霞がかかったような真夏の早朝のぼんやりした景色は、却ってそんな言い伝えさえも真実ではないかと思わせる雰囲気を演出していた。
「前も思ったけど、本当にこの山はスゴイな」
エドガーが、今にも突っ込んでいきそうな勢いで、遠くを眺めるように額に庇を作って身を乗り出した。
一昨年は全力で止めたが、今なら森の手前辺りまでなら探索のお許しが出るだろう。ついでにこの辺に生息するオークモドキでも狩りに出かけようかと、リュシアンは本気で考えていた。
どちらにしても、取りあえずはお茶や料理に使うハーブの採取だ。
「そっち、黄色い花のやつ、多めに摘んでね」
草木編みの小さな籠に、それぞれ担当するハーブを丁寧に摘んでいった。
しばらくそうしていると、遥か後方から誰かが走ってくるのに気が付いた。まだ子供の、二つの軽い足音だった。リュシアンは何気なく顔を上げて、直後、すぐに驚いたように立ち上がった。
「坊ちゃーん! お帰りなさい」
「えっ!? ピエール」
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