捜索2

「大丈夫、ペシュの得た情報はこちらにも伝わります。通った道だけですが、簡単な地図も製作できると思いますので、それを見て後を追いましょう」


 不安そうなフランツに、リュシアンがそう言ってから数時間が経過した。

 ここはワープ陣から少し引き返した旧3階層の空白地帯。

 待っている間、みんなで食事と休憩を取っているのだ。人数も減ったので例のリュシアン特製のシチューを振る舞った。

 主食はなんの調理もしていない普通のパンだ。それでもダンジョンで食べるにしては、十分にしっかりした食事である。


「えーと…、こんなことしてていいのかな?」


 フランツは目の前に提供された食事に戸惑った。

 しかし、身体は正直である。食べ物を視覚に捕らえた途端、一斉に彼らのお腹が鳴りだした。エイミの事は心配だが、なにしろ丸一日近く食べていなかったようなのでそこは仕方がない。

 赤面してしまった面々に、ニーナが促すように声を掛けた。


「今は焦っても仕方がないわ。いいから食べて」


 そう促されて、ようやく手を付けた。

 食べ始めると、そこは育ち盛りの若者たちである。よっぽど美味しかったのか、それこそがつがつと一瞬で食べてしまった。

 そしてニーナも、アリスやエドガーたちと一緒に食事を始めた。ダリルは地面に直接座って、従魔と一緒に食べている。 

 リュシアンはというと、パンを片手にまるで自動書記のようにすらすらと簡易の地図のようなものを書いていた。もちろんペシュが辿った道筋だ。通った所しかわからないので、まるでミミズが這ったような図ではあるが、行き止まりやモンスタールームなど、まるで見ているようにすらすらと書き加えていく。


「目で見るように見えるの?」

「ずっとじゃないけど、こう映像が切り取られたみたいな感じで…、目というより頭に浮かぶ感じかな?」


 ともかく行き当たりばったりで出発する訳にはいかないのだ。フランツたちが焦るのはわかるけど、二重遭難でもしたら大変である。決め手もなくワープ陣から無闇に離れるわけにはいかなかった。

 リュシアンの手元を興味深そうに見つめるニーナとアリスに、リュシアンは少し神妙な顔になって「ごめんね」と小さく謝った。

 何を言われたのかわからなかったのか、二人はきょとんとして首を捻った。パンを頬張っていたエドガーもこちらに視線を向ける。


「ダンジョンに残るって、勝手に決めちゃって」

「え、やだ。そんなのいいわよ。ここで見捨てるのもなんだか気持ち悪いしね」


 本当なら地上に戻って助けを呼ぶのが一番正解だとは思うし、リュシアンもこれが通常のダンジョンなら迷いなくそうしただろう。ただ、ここは現在も成長を続けており、誰が入っても迷子になる可能性がある。ミイラ取りがミイラになる危険を孕んでいるのだ。

 もちろん自分なら大丈夫、などと奢っているわけではない。

 誰にも話していなかったが、実はリュシアンには他の誰にもない一発逆転のファクターがあった。

 まだ試作の段階だし、成功するとは限らない。出来れば使いたくないので、ギリギリの状態になるまで使う気はなかった。

 たぶん知られれば、間違いなく面倒なことになる予感もあった。


「…あ、誰かいる」


 と、ここでペシュの視界に人影が映った。

 一人ではない、複数人いるようである。そして、そこが空白地帯であることもわかった。

 ここから2階層、下に降りた場所だ。

 ペシュは天井に張り付いて、気配を消しながら彼らに近づいていった。男が七人、女が四人…その中の一人がエイミの特徴に一致するように見える。

 それにしても、これは…

 リュシアンが戸惑うのも無理はない。なぜなら、彼らはどう見ても和気あいあいという雰囲気には見えなかったからである。

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