休憩
リュシアンたちは、空白地帯で休憩を取ることにした。
モンスターが侵入できない安全区域、ようやくゆっくりと昼食がとれそうである。
先ほど合流したパーティは、もともと今回は3階層のワープまでを二日間で予定していたらしく、食料も水も使い果たしてしまったらしい。聞くところによると、昨日残り少ない食料をモンスターの気を逸らすために投げつけて逃げたらしく、本当にすっからかんだったようだ。道理で水を貪るように飲んでいたはずだ。
リーダーは十六才の少年でカイと言った。男子三人、女子四人のいずれも王都での幼馴染らしい。
彼らを加え、予想外の大所帯になったので用意してきたシチューでは足りそうもなかったが、幸いこちらには先日、嫌というほど狩ったキックラビの肉が大量にある。ダリルがしっかり捌いておいてくれていたので、リュシアンが持ってきた大鍋で簡単なスープを作ることにした。
それと、あらかじめ用意してきた握り飯を振る舞った。
正直なところ魔物の肉にはちょっと抵抗があったが、動物型のモンスターなどは普通に食べられているし、物によってはかなり高価なものもあるらしい。キックラビの肉は、例えるならば高級な牛肉と同じくらいの価値らしい。ウサギとはいえ、やはりそこはダンジョン産なので少し高価とのことだ。
ダリルの下処理が完璧だったようで、肉は柔らかく臭みは一切なかった。
「おいしい、まさかダンジョンで温かい食事ができるなんて」
「キックラビって美味しいんだな」
感想は上々のようである。
調理はリュシアンがした。例の簡易コンロを二つ並べて大鍋を火にかけ、持ってきた根菜野菜などをぶち込んでポトフのような、塩で味を整えたさっぱり味のスープを作ったのだ。ここで、凝った煮込み料理などは無理だけど、このウサギの肉はシチューでも作ったらおいしそうだな、とリュシアンは思った。
ダリルはさっさと食事を終えると、またもや新たに狩った獲物を黙々と解体やら素材の分別を始めた。子ネズミもその周りをうろちょろしたり、ご主人であるダリルを登ったり下りたりと忙しない。
「なんだかダリルの印象が変わるわね。まあ、相変わらず愛想は悪いけど」
「だねー、ダリルがお父さんで、リュシアンがお母さんみたい」
ニーナ達はなんだか勝手なことを言っている。
うん、この二人にはここから出たら料理の下処理くらいは出来るようにみっちり鍛えてやろう。
そしてダリルには解体を教えてもらおう、とリュシアンは心に決めた。
「エドガー、ちょっと水くれ」
ぶっきらぼうにダリルが呼んだ。どうやら解体に使った道具を洗いたいようである。魔水で洗うのはなんだか贅沢な気がするが、なにせ食べ物を扱う道具だ。清潔な水で洗わなければならない。
今は、解体をすべてダリルに任せているので、エドガーも文句ひとつ言わず素直に従った。
「ところでソイツ、名前決めたのか?」
エドガーはダリルの手元に水を注ぎながら、ふと小鼠を見た。
中腰で刃物やまな板を洗いながら、ダリルは無意識に膝の上にちょこんと座っている小鼠に視線を落とす。
「いや…、なんか」
言葉を濁すのも無理はない、いろいろありすぎてそれどころではなかったのだろう。別にここで決めちゃうこともないけれど、従魔との絆は名付けることでも深まるから早くつけるに越したことはない。
「白とか雪とか?」
アリスが、顎を人差し指で支えるように上を向いて、一つ二つ例を挙げたのをエドガーがさっそく茶化す。
「ネーミングセンスがリュシアン並だな」
――人を引き合いに出すのやめようね、傷つくからさ。
そしてダリルは、驚いたように目をぱちぱちと瞬いて、ちょっとムキになって「シロとかぜってーねえ!」と、力の限り否定していた。
たぶんちょっと図星だったのだろう。
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