第七章 学園生活 ダンジョン攻略編
パーティ
その声にちょっとだけ聞き覚えがあった。
人混みに埋もれるように、丸い顔がニヤけた顔でこちらを向いている。背の低い、毬のように丸い身体。短い手足はまるでソーセージのようだった。
パンプティダンプティみないな、とかつてリュシアンが評した通り、どこもかしこも丸い少年だった。そして以前、リュシアンも絡まれたことがあった。
取り巻きも健在で、何気に増えている。ダンジョン攻略の為に急遽集めたのだろう。こう言ってはなんだけど、明らかに人望とは別のものでくっついているような輩でパーティーが組まれている。
「おい!おまえ、獣人!聞いているのか?!無視するな」
取り巻きの一人が唾を飛ばして言うのに、ダリルは我関せずである。
あれ、飛びかからないの?!リュシアンは、驚いたように瞬きした。
大概失礼な言いようだが、何度もぶら下げられた身としては仕方がない。振り向きもせず微動だにしないダリルを、感心したように仰ぎ見ていた。
そんなリュシアンに気が付いて、ダリルは不機嫌そうに眉を上げてソッポを向いた。どうやら本当は相当イライラしているらしい。ボキボキと指を鳴らして、何度も手のひらと拳を打ち付けている。
「あいつは、どうしょうもねぇ…」
どうやら過去に手を上げて、停学を食らったことがあるらしい。
あ、やっぱり殴ったんだね。
でも懲りない彼は、同じことを何度も繰り返すので、やっただけこちらが損をするということなのだろう。
「えーと、君は…、確かマンマルくん?だったっけ」
反撃してこない相手に、さらに調子に乗って中傷を続ける少年に、リュシアンはにこやかに話しかけた。
「無礼な!僕の名前はキアランだ。マンマルは国の名前だ!!」
「ほう…、国か。それは私も知らなかったな」
リュシアンとダリルの後ろから、長身のニーナとエドガーが現れて背の低いキアランの顔に陰を作った。そして、もう一人アリスもその横から顔を出す。
いつも一人きりでいるダリルの周りに人が居ることに驚いて、さらにその相手がニーナだったことにキリアンは腰を抜かしそうになっている。
「ひ、ひ、姫様。あ、いえ、僕は」
この人、懲りるってことを知らないのかな。前にも同じパターンでニーナにやり込められてたよね。そして、相変わらず逃げ足が速い。取り巻きと、パーティの仲間を置き去りにして、あっという間に姿を消した。仲間たちは、リーダーの華麗な撤退に戸惑いつつ、バラバラと後を追っていった。
大丈夫かな、あのパーティ…
「ったく、何がしたかったんだあのバカは」
呆れたような溜息をついて、エドガーは丸い後ろ姿が人混みに紛れていくのを見送っていた。
「ふん…」
ダリルは、小さく鼻を鳴らして腕を組んだ。
こちらも、まだチームワークとしてはギクシャクはしているものの、以前のような刺々しい雰囲気ではなくなっていた。どちらにしても、変な騒ぎにならなくて済んでよかった。
獣人云々は、正しい知識としてなら隠す必要もないと思うけれど、キアランのように悪意を込めた軽率な風評を広めるのは避けたかった。
正直、もう関わり合いたくない相手だ。
「明日の休養日からダンジョンに入れるけど、私たちはどうする?」
ゴタゴタを振り切るように、ニーナが話題を戻した。
「そうだね、出来たら来週の休養日からの五日間を使いたいかな。今週は、たぶん混雑するだろうし、それにちょっと巻物を追加しておきたいんだ」
「わかったわ。じゃあ、今月は来週の攻略にしましょう。申請しておくわ」
ちなみに、リュシアン達のチームリーダーはニーナである。ダリルを除けば最年長だし、学年も一番上ということで全員一致で決まったのだった。
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