獣人と魔力

 噂が本当だとすると、彼の魔力量は異質だった。

 獣人の血が混ざると、ほとんど例外なく魔力を失うのが常なのだ。

 容姿を見る限り、普通の人間に見える。

 逆立ったような短い髪は、黒に近いこげ茶色で、瞳の色は明るい金茶、これは獣人にはよくある色味で、決して珍しくはない。


「一番の理由は…、興味かな?」

「興味だと!?」


 くるっと方向転換していきなり歩きだしたリュシアンに、置いて行かれそうになってダリルは慌てて後を追った。


「うん、そう。それに、僕たちは魔法研究科の同じ班の仲間チームメイトでしょ。暴走しそうな仲間を、放っておくわけにいかないよ」

「べつに、仲間じゃねぇ…あんなのは一時的に組んでるだけだ」

「まあまあ、そこはいいんだよ。そんなことより、召喚の事だけど」

「な、なんだよ」


 ダリルは仲間や、友人という言葉に嫌悪感を抱いているようだった。

 入学以来、獣人との混血であることは公表していなかったが、ダリルはべつに隠しているつもりはなかった。親しい友人たちには、それとなくそういう話したことはあるし、その後の関係も変わることはなかった。

 だが、一日にしてダリルを取り巻く環境は変わった。

 魔法を使う猿がいる――ある日、教室のボードに貼り出された。

 卑しい獣は魔法を使うな、人の言葉を話すな、などと言いがかりも甚だしい文書が送りつけられ、侮蔑を交えた流言がまことしやかに囁かれ、面白おかしく飛び交った。

 誰が始めたか、そんなことはどうでもよかった。

 怒りよりも、失望感が募った。差別のない学校だと聞いた。たとえ獣人混じりでも努力さえすれば、上を目指せると信じていた。

 だから、村を出てまでここに来たのだ。

 それが蓋を開けてみれば、結局は貴族が威張り散らし、魔力よりも家柄によって評価が捻じ曲げられた。もちろん全部が全部そうではなかったが、積もり積もった小さな不満が膨れ上がり爆発した。

 それからは一人でいることが多くなった。

 やがてダリルは、魔法で上を目指すことのみ拘るようになる。

 獣人混じりと馬鹿にしたやつらを、相手の土俵で、魔法で叩きのめすために。

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