獣人と魔力2

「実はね、もともと獣人と魔獣は相性が良くないんだよ」


 リュシアンは、いきなりなんの衒いもなく核心をついた。


「てめぇ…が、なんで」


 ダリルが驚くのも無理はなかった。

 なにしろ例の噂は、上級生のほとんどには知れ渡っていたが、ここ二年ほどの新入生は知らないはずだったからだ。リュシアンは、ニーナ繋がりで上級生との交流が多かったため、たまたま耳にしたのだ。

 噂が流された直後、学園によりかなり強引な火消しが行われた。

 事実無根だとして、これ以上の詮索を禁止したのだ。さらにダリルにも、そのことに関して質問されても、肯定せず無視するようにとの通達があった。

 それは人道的対処に見えて、実のところは獣人を差別していることに他ならなかった。

 学園の理念として、身分種族に問わず門戸を開いているが、どちらかというと魔法関係に優れたものが多く、たとえ武術系でも魔力皆無のものはいなかった。そのため獣人が在籍したことはほとんどなかった。

 もちろん獣人が入学してはいけないという規定はない。それでもその体質上、魔力がない者の入学は難しいと言わざるを得なかったのだ。

 余談だが、獣人と一纏めにされる亜人の中でも、鳥型、トカゲ型、人魚などは魔力に似た力があり、一般的な獣人とは別格に扱われている。

 もとより昔から獣人の地位は低く、百年前ほど前までは、そのほとんどは奴隷だった。そのこともあって人間やエルフには、どうしても獣人を差別する風潮があったのである。


「だからね、召喚の儀がうまくいないのも、そのせいだと思うんだ」

「てめっ…俺のせいだって言うのか!?答えろっ…、てめぇも俺を…」


 この人、本当に人の話聞かないなあ…


「相性だってば!…あのね」


 リュシアンは、王都で山ほど読み漁った書物の記憶から、獣人に関する記述を思い出していた。

 獣人の多くはもともと森で暮らしており、その頃から魔獣や他の動物と縄張り争いが絶えなかったという。そのため、お互いを認識して無用な争いが起こらないように、自然に距離を置くようになっていったというのだ。


「フェロモンっていうか、匂いっていうか、そういうのが出てるらしいよ」

「匂い!?」


 はっとして、ダリルは慌てて自分の匂いを嗅いでいた。


「人間の血が入ると、ほとんど消えてしまうらしいけどね。ダリルって、獣人のハーフだっけ?」

「はぁ?!俺はハーフじゃねえ、故郷の一族が、もともと獣人の血を受け継いでるだけだ」


 思ったよりずっと血は薄いようである。噂など、本当にあてにならないものだ。

 リュシアンは、おもむろにダリルの周りをぐるりと回った。

 ダリルは、不愉快そうに眉を顰める。

 獣人混じりと知った時、大抵の相手には多かれ少なかれ侮蔑の色が浮かぶ。今となっては獣人イコール奴隷ではないけれど、それでも昔から受け継がれてきた記憶と、今も根付いている魔力至上主義がそうさせるのだ。

 

「なんだよ…、何してんだ」

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