エキューデ商会

 …うちの城下町の別邸より大きいね。

 リュシアンは思わず口を開けて屋敷を見上げた。下手な貴族なんかよりお金持ちって言うのは、紛れもなく本当なんだろう。大方の貴族って、お金の使い方おかしいからね。見栄を優先して身代を潰すってよくあるし。

 

「お嬢様、お帰りなさいませ」


 執事風の男が、玄関口でアリスを出迎えた。すぐにニーナやエドガーに気が付いて、改めてそちらにも深々と頭を下げた。


「パパは?」

「先ほどから、お嬢様をお待ちでございます」


 アリスは「リュシアン達の事は事前に話してあるのよ」と補足をして、自らが案内に立った。

 階段を上って、すぐの部屋が父親の部屋らしい。

 一同は軽く挨拶を済ませた後、すぐに本題に入った。面倒な説明をアリスがすべて済ませてくれていたので、何事もスピーディに進んでゆく。


「職人の件はわかった。信用のおける店をいくつか紹介しよう」


 ドリスタン王国の城下町に、大きな門を構えるエキューデ商会。

 アリスの父、パトリック・エキューデは、とある騎士爵の次男坊だったらしい。アリスは末の娘だと聞いていたので、かなり年配の人物だろうと想像していたが、思った以上に若々しく精力的なイケメン紳士だった。商人って、なんかこうでっぷりとした印象があるんだけどね。

 顔つきのせいで優男に見えるが、その泰然と凪ぐ瞳の奥には、成功者特有の油断のならない貫禄がある。


「買い取りについては、まずは私が確認させてもらってもいいかな?」


 当然と言えば、当然である。おそらくアリスは、本当のことは話してはいない。

 出どころのはっきりしていない物を、おいそれと買い取るわけないはいかないだろう。実際のところ、ダンジョンの件を内緒にしたのは騒ぎにしたくなかったからで、他に理由はない。

 これから協力を仰ぐなら、少しは事情を明らかにするべきかも知れない。


「私は、少しばかり鑑定のスキルを持っていてね」


 そう言うと、胸の内ポケットからルーペを取り出し、テーブルに置かれた一つの鉱石を取り上げた。リュシアンが、初級の魔法陣で鑑定できなかったものだ。あれを真っ先に手にするということは、かなりの目利きである。


「こ、これは…」


 パトリックは、思わず顔を上げた。確認するように娘を見たが、肝心のアリスはいささかも動揺した様子がなく、きょとんとしていた。そこで、ぐるりと順に視線を巡らせて、ふと一人の少年に目を止めた。

 年若い少年少女たちの中にあって、さらに幼く一番年下だろう彼は、けれど唯一パトリックの驚愕を理解している様子だった。

 加えて、穿った見方をするなら、こちらを試しているようにも思える。


「君は…、これの正体がわかっているんだね?」

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