脱出作戦
これでチョビの不可解な行動の謎が理解できた。
いわゆるやきもちというやつである。相手が同じ従魔だということで、対抗心が生まれたのだろう。実際、ニーナやアリスと仲良くしていても、チョビは我関せずである。むしろ、ニーナには懐いている感さえある。
にわかに現れた新入りに、ご主人様を独り占めされたと思ったに違いない。
リュシアンは彼女(?)が従魔になってることに気が付いてなかったので、ついチョビに邪険な態度を取ってしまったが、ちょっと悪いことをしたと反省していた。
まだ拗ねてる様子のチョビの背中をチョンチョンとつついたが、頭に乗ったっきりそれこそ石のように動かなくなってしまった。
(……ごめんね、チョビ)
「さて、この子にも真名はあるけど……やっぱり呼んじゃダメなんだろうな。また名前決めなきゃいけないのか」
リュシアンは、困った様子で頭を悩ませた……が、とりあえず保留にしようと、数分できっぱり切り替えた。なにしろ、今は悠長に悩んでいる時じゃないからだ。
「まあ、正体も分かったし、よしとしよう。この子の事は置いといて、問題はここからどう脱出するかだよ」
忘れたふりをしたって、現状は変わらない。新たな従魔に構っていた三人が、急に冷や水を浴びせられたような表情をするのに、リュシアンは思わず肩を竦めて苦笑した。
「……僕に、考えがあるんだけど」
まあ、考えっていうか、やけくそっていうか……ぼそりと付け加えた言葉は、ほとんど独り言だった。
はっきり言って、それは作戦でさえなかったからだ。
「先頭に僕、そしてニーナたちを挟んで後ろにエドガーで、一気に駆け抜ける」
案の定、それを聞いた仲間たちは、期待に輝かせた顔を、直後、えっと驚いて戸惑ったようにお互いの視線を交わした。
彼女たちが口を開く前に、リュシアンは矢継ぎ早に説明を始める。
エドガーには、風の結界魔法で全員を守って欲しいと頼んだ。この魔法は、妹のマノンの魔法の練習の際、散々付き合ったので呪文はばっちり覚えている。エドガーなら属性も魔力も申し分ないので、すぐに使えるようになるだろう。熟練度による補正がない分、ちょっと不安だけど何もないよりはマシである。
「エンカウントしても、ニーナ達は絶対に手を出さないで。とにかく一つだけ守ってほしいのは、結界の外には出ないようにってこと」
「ちょっ……、ちょっと待って! これってリュシアンが一人で先頭を受け持つってこと? そんな、私たちも戦うわよ」
リュシアンが言葉を切ると、ニーナが慌てて割って入った。
そう言われるのはもちろん想定済みである。けれど、リュシアンはきっぱりと首を振る。
「ごめん、正直に言うと足手まといになる」
あまりにもはっきりと断られて、ニーナ思わずぐっと口をつぐむ。私もっ、と続こうとしていたアリスも、中途半端に口を開けたまま固まっている。
「……というか、連携が出来る状態じゃないんだ。おそらく相手は格上、それも馬鹿げた差のある相手だと思う。普通に考えたら、かないっこない相手なんだ。だから向かい合ったら、たぶん……」
一瞬で屠られるだろう、と。
対峙することが、すでに危ないんだとリュシアンは言った。
もちろん、ニーナ達だって舐めていたわけではないが、実際にマッピングしたリュシアンは、その危険性をまさに肌で感じていた。
そこで思いついたのが、チョビの無差別薙ぎ払い大作戦。プラス、リュシアンの手加減なしの魔法陣攻撃魔法。
なぜかここでは巻物が不要で、しかも魔力の回復も馬鹿みたいに早い。
ということで、リュシアンが今まで仕入れたネタのようなとんでも魔法と、チョビの無差別魔法でブルドーザーのように進んでいこうという作戦なのだ。
もはや作戦と呼ぶのもおこがましいほどの力押しだ。しかし、これしか手がないとも思った。
普通に渡り合った時点で、敗北が決まる。相手がどんな攻撃をしてきたにしろ、こちらは一発KO間違いなしだろうからだ。
よって、目が合う前に薙ぎ払う。相手を確認するまでもなく、襲い掛かられる前に先手必勝。オーバーキル上等でいくしかないのだ。もしかしたら相手はチョビよりも、チートを駆使したリュシアンよりも、さらに強い可能性さえある。そうなったら、それこそもう諦めるよりない。
もとよりそういう、一か八かの賭けだった。
全員あっけにとられる中、リュシアンも内心では人一倍大きなため息をついた。
(魔力はともかく、気力が続くかな……)
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