ダンジョン無双
リュシアンたちは、マッピングのおかげで迷路のような道も、巧妙な罠部屋にも惑わされることなく、下り階段を目指してひたすら進んでいった。
チョビには振動系の重力魔法と、ボム系の攻撃を禁止した。
何しろ、ここは洞窟のようなダンジョンなのだ。そんなのを使って天井が落ちでもしたら一大事である。リュシアンも、あまり衝撃が入るような攻撃は控えつつ、それでも多少は無茶をしつつ、チョビと一緒になって全体魔法系を手あたり次第に披露した。
火と土と風の複合魔法のメテオトルネード。炎と石つぶてを孕み、屯っていた数十匹というモンスターを巻き込んで、すごい勢いで逆巻きながら前方一面を焼き払った。
ここは、回避不可能のトラップルーム。いわゆる、モンスターを全滅しないと先に進めない仕様だ。できれば避けたかったが、地図のどこを通っても必ず一回は遭遇するようになっているらしい。
侵入者に気が付いて、わらわらと近寄ってくる魔物を、片っ端からオーバーキルの魔法で薙ぎ払っていく。なにしろ打ち漏らしでもしたら、その時点でジエンドだ。出し惜しみしている余裕はなかった。
リュシアンは確かに魔力量は多いし、基本的に魔法レベルを無視して大魔法を行使できるが、やはりトンデモ魔法は必要とする魔力量も尋常ではなかった。ぎゅんっと魔力が激減して、次の瞬間にはみるみる回復していっぱいになって…、を断続的に繰り返すので、まるで船に乗っているような、エレベーターに乗ってるような、そんな浮遊感がのべつまくなし襲ってくる。
さすがにちょっと酔ってきた。
そして、後方。
今からモンスター部屋に入ると注意を促されたので、三人は異様な緊張に包まれたのだが、一分もしないうちにそれはあっけにとられた表情になる。
リュシアンの魔法陣があたりを照らすと、次の瞬間には炎や雷がビカビカ光っては、魔物たちが紙切れのように吹っ飛び、時に断末魔のような雄叫びが聞こえてきた。
チョビもめちゃくちゃ張り切っていた。なにしろ、いつもならスキルを使うとだいたい怒られるのだが、今回は手加減なしに吹っ飛ばしても褒められてしまうのだ。しかも、さっき叱られた面目躍如、いいところをたっぷり見せないといけない…と、思ったかどうかはわからないが、ともかくチョビも容赦ない火炎攻撃と、氷結攻撃を繰り出していた。
「あはは…、なにこれ。ひどいね」
もう笑うしかない。ニーナとアリスは、預かったコウモリの少女の手を引いて、ひたすら置いて行かれないようにリュシアンの背中を追うのに必死である。その後ろのエドガーは、笑ったような引きつったような表情でぽつりと呟いた。
「チョビと、リュシアンを敵に回すって、ホント命知らずだよな……」
自分の母親がどういう人物を敵に回しているのか、本当の意味で知った瞬間だった。もちろん今回の事は、いろんなイレギュラーが重なってはいるが、それでも本来、くだらない王位争いくらいで命を落としてもいいような玉ではないとエドガーは改めて思ったのである。
彼らが通った後には、黒焦げの魔物が累々と転がっていた。
はっきり言って、この魔物たちは出会いがしらの事故に会ったようなものだろう。アリスはふと思いついたように前を歩くニーナの袖を引っ張った。
「ねえねえ、ちょっと協力して…」
「どうしたの?」
相変わらず、前方ではビカビカと閃光がいななき、一面が氷結して、炎が渦巻いている。そんな中、アリスはニーナに短く耳打ちをした。少し思案したニーナの形の良い唇が、面白いことを聞いたようにニッと引き上げられた。
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