別れと再会

 先日の様子が少し気になったが、朝になるとエドガーはいつもの調子を取り戻していた。そして、ついに王都へ旅立つ日となった。


「さすがに、帰らないわけにはいかないよな」

「当たり前でしょ、ほら早く乗って。はい、コレ途中で食べてね」


 いまだに往生際の悪いことを言って、馬車に乗るのをぐずるエドガーに、リュシアンはお気に入りの甘いお菓子を持たせてご機嫌を取る。


「おっ、ありがとな。そうそう、父上に何か伝言があれば伝えるぜ」

「ないよ、別に」


 逐一連絡が行ってて、のぞき見されてるようなものなのに何を今更、と呆れたようにズバッと一刀両断したリュシアンに、流石のエドガーも苦笑を禁じ得ない。


「お前、俺より父上に容赦ないな」


 そう言って首を振ったエドガーだったが、王家にこれほど振り回されてなお、リュシアンはそのこと自体にはそれほど頓着した様子はない。運命を呪うこともなければ、安易に王国に激しい怒りをぶつけることもなく、ましてや父親である国王を憎んでいる様子もない。

 もちろん、言葉の端々にうっとおしいな、と思っているだろうことはチラチラ見え隠れしているが。

 それでもエドガーは、リュシアンから向けられる肉親の情のようなものは感じていたし、それを嬉しくも思っている。

 遠ざかっていく馬車に向かって、いつまでも手を振り続けるリュシアンに、エドガーも馬車から顔を出して屋敷が見えなくなるまで手を振った。

(――俺も、耳を塞いでいるわけにはいかないよな)

 エドガーは、しばらく続く退屈な長旅に辟易としながら、王都でなすべきことをゆっくりと考えるべく、馬車に揺られながら目をつぶった。






 そして数日後、ようやくいつもの静けさを取り戻したオービニュ家に、新たな珍客が訪れることになる。

 なんとも豪華な二頭立ての馬車が、突如玄関先につけられたのだ。むろん、田舎とはいえ伯爵家なのでそれなりの馬車が横付けされることはままあるが、それにしても白馬の二頭立ては滅多にない。

 なにより、目立つ。

 執事に呼ばれて玄関までやって来たリュシアンは、豪華な馬車から降りてきた二人に呆然となった。

 今からどこの夜会に出かけるの? と聞きたくなるような装いで、ニーナとアリスが裾の長いドレスを捌きながら、玄関先に唖然と佇むリュシアンのもとへと歩いてきたのだから。

(なにコレ、チンドン屋?)

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